エイプリルフール

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厳かな音楽と共に、親のいない私は新郎新婦でバージンロードを歩く。入場は拍手で迎えられる。 聡志のお義父さん、お義母さん。お店のスタッフ、その他 たくさんの人に祝福をされながら、雄太と芽衣の横を通り過ぎる。 同い年の我が子達を付き従え、義兄の元に嫁ぐ元カノをどう思っているのだろうか。 雄太の心には一生残る傷をつけたいと願う。 ベールで顔が隠れるのは心底ありがたいの 真実の愛など、どこにもないから 裏切った二人の前なら何だってやる 私は神の前でも平気で嘘をつく 教会のステンドグラスから日が差し込む 。色とりどりのガラスの光が床や壁にも届く。 神聖な空間で偽りの愛を誓う。 お互いが視線を合わせ、声を(そろ)えて誓いの言葉を読み上げる。 仲が良い姿を見せつけるほど裏切り者たちは悔しがる、と思えるからこそ、日向子は思い切り恥じらう。 「私たちは 病める時も 健やかなる時も 生涯を互いに支え合うことを誓います」 日向子は誓いのキスをする。目を開けると聡志がいる。なぜだろう。 ほんの少しだけ、この人を失うのが怖いと思った。 着物姿にお直しした新郎新婦は、披露宴の会場に入りに頭を下げた。お色直しは和装の色打掛けを選んだ。費用に糸目はつけないとの義理母の言葉に甘えた。 鮮やかな紅色(くれないいろ)に真っ白な鶴が羽ばたく。色とりどりの花が舞う打掛は、ため息が出るほど美しい。 色打掛けを着るのは「婚家の人になる」という意味がある。新谷家に染まる自分に、体中に流れる血が吹き出しそうなほど憎悪が募る。 祝福の拍手が鳴り止まない中、日向子は会場全体を見渡す。拍手をしない招待客は2人だけだ。 芽衣の嫉妬と殺意をむき出しにする視線が心地いい。 雄太は蒼白な顔で机の上の飲み物をこぼした。芽衣のドレスにかかってしまい、真っ赤な顔で妻は夫の不始末を叱責する。紅白の顔色が対照的だ。 この素晴らしい式を見て 芽衣、あなたは結婚式をあげてないのよね 祝福を浴びた私を見て 花道を進み、新郎新婦のひな壇に向かう。 雛人形とは 結婚式の様子を()している。 美しい着物を身につけた 男女一対の人形は天皇皇后のように幸せな結婚を願ってのものだ。豪華な式に会場が湧く。 ほら お義母さんが泣いてる いいことしてるでしょ? あなたの代わりに親孝行してあげた 雛人形は顔が命。日向子は無言の微笑みをたたえ聡志の横に鎮座する。
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