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会場からは ため息が漏れる。
口々におめでとう との声が聞こえる。
「これで新谷家は安泰だ」
「よっ日本一 、世界一」
「綺麗な花嫁さんだ」
「名前がひなこって言うんだ。 本物の雛人形みたいね」
「聡志君、よかったね」
私たちは ひな壇に座る。その後真ん中に正人の席を用意した。大きな拍手で迎えられ緊張した面持ちの正人だったが、紹介されて頭を下げると礼儀正しく座る。
聡志が正人の頭を撫でた。
満面の笑みで返す新郎の様子に、会場からの拍手はより一層 大きくなる。
話しかける娘そっちのけで、雄太はひな壇を一心に見つめる。新しい息子の存在をどう思ってるのかはこれから少しずつ聞いていこう。
滞りなく式は進み、親への手紙も披露された。聡志から
「色々 苦労をかけました。これからは親孝行したいと思います」
の言葉に、恵子の涙は止まらない。新郎の義理父による 挨拶も終わり、たくさんの写真と祝いの言葉と共に結婚式は無事終了する。
控え室で着替えを終えて部屋を出ると、ドレス姿のめいが強引に部屋の中に押し入ってきた。
「あんた、よくもやってくれたわ!」
「芽依さんこそ。キレイに着飾っても心の醜さが出て、ドレスが台無しです」
「厚かましい! あんなに盛大な式あげて。よくもうちのお金使って!」
「おかしいです。あれはお義母さんのお金であって 芽衣さんのではありません。
悔しければ 今からでも式を挙げては?」
「いちいち マウント取るな!一生あんたを家族とは認めないから」
半開きの扉から雄太が入ってきて、急いで芽衣を取り押さえる。
「いい加減にしろ。芽依。やめてくれ。
誰かに見られたらどうするんだ」
「離してよ ゆう君!一発かまさないと許せない」
背後から押さえつけられて暴れる芽衣の前で、日向子はそっと芽依の首筋に触れる。
「触るな!」
と威嚇する芽衣に動じることなく、微笑みを浮かべる。
「暖かい。頸動脈はこの辺か。切ったらあなたの家族、どうなるかな」
「脅迫?そんなもん、全っ然怖くない」
不自然な笑顔を見せた芽衣の額から流れ落ちる汗が、日向子の手の甲に落ちる。そのまま、日向子が雄太の頬に手を伸ばすと、ものすごい勢いで芽衣が手をはたき落とした。
しかし 一切痛がる様子もなく、日向子は雛人形のように、にこやかな、はにかんだ笑顔を浮かべる。
「芽衣さんは正直です。 全然あの頃と変わっていない。自分のものだと主張したいんですよね。取られるのが怖いから。だから一刻も早く妊娠した。かわいい人」
「……あんた誰?本当に あの大人しかった古月 ひなこ?」
「新谷 日向子です。新しい夫がいるので、ゴミはいらない。欲しいのはお店と将来です」
「出て行けっ!お店はお父さんとお母さんの物。 ゆう君の物だ」
「なら芽衣さんも、夫を支えて働けば?
お互いに結果を出しましょう」
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