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日向子は母子家庭に育ち高校卒業後、就職のため 初めて一人暮らしでアパートを借りた。仕事も慣れてきた20歳の頃、雄太に出会った。
3歳年上で近所に住んでいた雄太は、生活圏内のスーパーやコンビニで何度か 顔を合わせ、米を買った日に重い荷物を持ってくれたのが始まりだ。何かと親切にしてくれた雄太と、恋人になり同棲するまでに長い時間はかからなかった。初めてできた彼氏だった。背は175cm ぐらい。茶髪に染めた彼はお金はなくとも 服や靴に気を使っていた。
付き合って3年目に妊娠を告げたあの日は3月3日の桃の節句だった。プロポーズされて2人で市役所に婚姻届をもらいに行った。
「雄太!赤いボールペンで書いたの?だめだよ。黒で書くって書いてあるよ?」
と、注意をすると、
「ごめん。ごめん。焦っちゃったよ。
子どものために早くしないと、と思ってさ。明日、もう1枚もらってくるから」
と はにかんで笑った彼の姿がとても愛しかった。生まれてくる子と雄太との3人の幸せな未来を思い描いて、裕福でなくとも幸せな日々だった。
しかし満ち足りた幸福は長くは続かなかった。雄太は
「仕事でバイトも掛け持ちしているから忙しんだよ」
と、婚姻届を忘れて帰ってくる日々を繰り返した。自分と子供のために頑張って仕事をする雄太に何も言えなかった。
ある日、家に帰ることが少なくなった雄太を心配して、日向子は大きくなる お腹を抱えてお弁当を届けに行った。しかし、勤務先はすでに退職していると聞かされた。諦めきれず
「彼の子を妊娠してるんです。どこに行ったか知りませんか?」
と聞くと、従業員の女性が驚いたように、半年前から雄太には彼女がいたと教えてくれた。
浮気の事実が明るみ出て、夜に久しぶりに帰ってきた彼と喧嘩になった。あの日の会話がよみがえる。
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