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端午の節句
結婚式から1ヶ月ほど経った。
聡志と日向子の経営する中華料理店「万来」は、子供向けのシェフになってみようの企画が好調で、ゴールデンウィーク中は予約が増えた。
スタッフとも話し合い、現場重視で働きやすい環境を目指してた結果が少しずつ現れた。率先して働く若奥様の姿が店内の雰囲気を明るくした。
1年生になった正人は 学童クラブに預けられた。
連休中も店が休めないのを理解しているようで、どこかに行きたい とのわがままは一切言わなかった。反対に聡志が正人と遊びたいとごねるほどだった。
平日は恵子が正人を迎えに行き、夕食と風呂の世話までしてくれる。
夜9時頃に 日向子が同じマンション内の実家を訪れて、正人を連れて帰る。11時を過ぎる頃、聡志が帰宅する。
準備された家は部屋数も多く、正人の子ども部屋も用意された。ワンルームで暮らしていた母子家庭の身としては贅沢すぎるほどの広さだ。夫婦の寝室は ダブルベッドが置かれ、毎日一緒に眠る。
夫婦の営みは3日に一度は行われる。驚いたのは聡志の愛情表現の方法だ。まるで壊れ物でも扱うように優しく全身を愛撫する。時間をかけて、日向子が我慢できずに声を上げてイクまで前戯をこなす。
「さ…としっ……」
体中、奥深い茂みまでキスをやめず、体がのけぞる。聡志自身が果てた後も、必ず日向子を抱きしめる。
独りよがりのセックスはせずに 2人で愛し合いたいと言う。降り注ぐような愛情を受けて 日向子は正直、困惑する日々を送っていた。
今日は 端午の節句だ。お店は夕方5時で閉店して、恵子が自宅で開くお祝いの席に家族全員で参加する。日向子はお店を休み 、恵子とともに鯉のぼりの巻き寿司を作り、お店で好評だったカブトの形をした春巻きも作る。好物の唐揚げを見て、正人も嬉しそうに手伝う。
夕方5時を過ぎて義理の妹夫婦がやってきた。開口一番、恵子は娘に嫌味を言う。
「どうしてもっと早く来ないのよ。昼からでも手伝いに来て って言ったのに」
「忙しいから。お母さんが桜を見てくれないし」
「だから桜ちゃんだけでも連れて来いって言ったのに」
「それは……」
芽衣は日向子と目が合うと、あからさまに不機嫌になった。予定では前日から桜は恵子の家に泊まるはずだったが、 日向子が手伝うと知って急遽予定を変えてきた。
雄太が後ろから大きなケーキを持って現れる。
「こんばんは」
日向子は頭だけ下げる。正人が出てきて
「こんばんは。おじさん、そのケーキ 大っきいね」
興奮したように話すと桜も嬉しそうに答える。
「そうだよ。お店で一番大っきいのだって」
箱を見ると有名店のケーキだ。美味しいと評判で、1ヶ月前から予約しないと買えない品物である。
結婚式から端午の節句のお祝いの話を恵子がしていたとはいえ、芽衣がわざわざ予約したとは思えない。
我が子に関心があるなんて 意外ね
玄関口でケーキを子ども達に渡す。皆が部屋に入ると、靴も脱ぐのも忘れた雄太が、小さく日向子を呼び止める。
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