端午の節句

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雄太の声は震えている。 「日向子……さん」 「中にどうぞ」 「一度話したいんだ」 「義理の弟が何の用ですか?」 「弟って……俺達は」 突然の玄関が開く音で、会話が途切れる。 聡志が息を弾ませて現れる。 「間に合った?」 「うん。ばっちり」 「よかった〜腹減った」 聡志は、玄関にぼんやり立つ雄太を見て、これ見よがしに日向子の肩を抱く。 「渡会君も突っ立ってないで入って」 会食が始まった。 たくさんの料理に囲まれて 場も和やかだ。恵子が 「今日はまさ君が主役だから、一番大きなケーキ 食べていいわよ」 と、露骨に正人を可愛がる。そんな母を芽依は苦々しく見ていた。さらに立派なのし袋に「お祝い」と書かれたお小遣いまで 渡すのを見て、ついに 芽衣の堪忍袋の緒が切れた。 「正月でもないのに、なんで小遣いあげるかな?」 とっさに空気を察した正人の顔が曇る。 恵子が芽衣をたしなめる。 「芽衣。お祝いの席で文句言わないで。 桜にもあげてる。孫は平等に扱う」 「お母さん!?」 「さあ、2人ともこっちで遊びましょ」 と恵子は子供達を別室に連れて行った。義理父もいなくなる。ちっと芽衣が舌打ちをすると、聡志がたまらず文句を言う。 「お前 態度悪いな。子どもに気を使わせるなよ」 「お兄ちゃんこそ血も繋がってないのに、よく優しくできるよね。その嫁、悪魔よ」 「俺はいいけど、日向子を悪く言うな」 「興味ないの?正人がいったい誰の子か? 知ったらすぐ離婚になるよ〜」 緊張が走る。芽衣は耳の辺りの髪の毛を指に絡めたり、ほどいたりしながら横柄な態度を取る。雄太の表情が固くなる。しかし、聡志が呆れたように口を開く。 「それ大事なことか?」 「当たり前」 「正人は日向子の子だ」 「冗談でしょ 。子どもってのはね、女1人で産めないよ。必ず男がいて」 「お前こそ、桜は誰の子だ?」 「は?ゆう君の子に決まってる。バカじゃないの?」 「結婚前にバイト先 変えたし、彼氏いたよな? 雄太君とかぶってないか?」 「変な言いがかり つけないで。DNA 鑑定してもいいけど、昔の話しないで。関係ないし!」 「今から聞いてみるか?俺の友達のやってた店だから、連絡先まだ残ってて……」 「帰る!!」 突然席を立ち上がった芽衣はバックを持ち、嫌がる桜を強引に連れて帰ろうとした。しかし、桜は泣いて嫌がり今日は 恵子の家に泊まると駄々をこねる。 芽衣は 「正人は家に連れて帰って」 と捨て台詞を吐きながら靴を履く。追いかけてきた恵子に 「跡継ぎになる子になんてこと言うの」 と怒られ、さらに聡志からもとどめを刺すように言い返される。 「気に入らなかったら二度と来んな。 渡来家に嫁いだんなら向こうの実家 行け」 玄関がバタンと閉まる。そそくさと雄太も芽衣の後に続いて出て行く。日向子は 「お料理の残りを詰めたタッパーを忘れてます。届けてきますね」 と言って2人を追いかけた。
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