端午の節句

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駐車場で口論を始める雄太と芽衣に気づかれぬよう、日向子は 車の陰に隠れた。 「二股かけてたのか」 「違うよ。お兄ちゃんが適当なこと言っただけで」 「桜、本当にオレの子?」 怒りが頂点に達したのか、芽衣は鬼の形相で持っていたバックを夫に投げつけた。雄太の顔に当たり、そのまま 落ちる。 「疑うなら DNA 鑑定でも何でもすれば? ゆう君、髪の毛 2本 ちょうだい。もう1人分も鑑定してもらう。お母さんにそれ見せて、お兄ちゃんと離婚させる」 「バカ言うな!オレはどうなる? お義兄さんは、正人が俺の子だって知らないだろ?」 「だから教えてあげるの!騙されるって」 「オレが追い出されるかもしれないだろ」 「何で? 先に結婚したの 私たちよ」 「順番とか関係ないんだ !お母さんは芽衣よりお義兄さんを可愛がってる。 それに正人はどうなる? また貧乏生活に逆戻りだ。腹減ったら、草とか 紙食べてたって言うんだぞ? 『白い紙はちっちゃく破ってお水にぬらすと食べれるんだよって』 節句の祝いなんて初めてだって。うまそうにケーキ食って」 「子どもなんて 何でも食べるし!」 「俺によく似てるんだよ!小学校入ったばかりなのに難しい漢字も読める。楽しそうにしてる。それを追い出すなんて!」 「キモ。急に父親ヅラ?あんな子どうなってもいいし。 桜も漢字ぐらい読めるし。比べないで。もういい。 このまま遊びに行くからついて来ないで」 ヒールの音が響く。 夜道に消えた芽衣を雄太は追いかけることなく、ただただ見送った。 日向子は部屋に戻る。2人を追いかけたが間に合わなかったと話す。そして、桜とともに恵子の家で泊まる正人を残して、家に戻った。 聡志には、 「さっきは守ってくれてありがとう」 と感謝を述べると、そのままベッドに連れて行かれた。聡志に身を任せると、体の芯が熱くなる。 吐息が絡み合う。いつもより激しく奥まで貫かれる衝撃に、意識が遠のく。 「日向子、オレだけを見て」 聡志は自身の全てを放った後 「愛している」と言って優しくキスをする。 その手と唇に酔わされて、日向子は愛の重さに溺れていくように目を閉じた。
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