盂蘭盆会(うらぼんえ)

6/7
前へ
/29ページ
次へ
翌朝は快晴だった。紺碧の空と海が広がる。 真夏の青空は深く濃い青色で、海と溶け合うようだ。 食堂にみんなが集まり バイキングの朝食を食べる。日向子は白のワンピースを選んだ。しかし全身につけられた キスマークは一晩では消えない。薄水色の長袖のカーディガンを羽織り、首元をスカーフで隠す。 芽衣の服はリゾートにふさわしい、肌を露出させた服だ。白い半袖は胸元が開き、両足を見せる。 目の覚めるような黄色のショートパンツはひまわりをイメージしたと言っていたが、日向子には危険なスズメバチを連想させた。 禍々(まがまが)しいほどの攻撃的な黄色は 「あえて毒を持っているぞ と警告をして、自身の安全を確保する」のだと図鑑を見ていた正人が教えてくれた。スズメバチの毒針で刺されたら死に至る時もある。無意識に相手を傷つける 危険な女だ。 朝食後 海辺を歩きたいとせがむ 子供たちに芽衣と日奈子が付き添う。波打ち際で仲良く遊ぶ正人と桜を眺めていると、やるせない気持ちになる。 一方 芽衣は苛立ちを隠さなかった。 原因は朝食時だ。スタッフが家族の前でトレーラーハウスがきれいに片付いていた。恵子さんはいいお嫁さんもらったと褒めてくれた。お義母さんは喜び、聡志は朝日をトレーラーハウスから妻と見た。 最高だった。と言っていた。 しかし 芽衣は知っていた 。 朝風呂に向かう廊下で兄夫婦が部屋に戻るのを見た。そこに正人の姿はなく、寄り添う夫婦は間違いなく、恋人のような濃密な時間を過ごした朝帰りに見えた。 自分自身が過ごすはずだった場所を取られたようで、芽衣の怒りは日向子に向けられた。 砂浜にて 女2人の静かな戦いが始まる。 芽衣が穏やかに 波打つ海を見ながら攻撃を仕掛けてくる。 「昨日はお盛んだったこと」 「どういう意味ですか?」 「とことん 邪魔してくれる。けど私とゆう君の中の良さがそんなに うらやましい? トレーラーハウスがなくても、子どもが隣にいても、あたし達やることやってるから」 ザザンと波の音が聞こえる。しばらくの沈黙を経て、日向子は静かに応戦する。 「きれいな肌ですね。シミもない。(うらや)ましいです」 「あんたと違って お手入れしてるから」 「私なんて 恥ずかしいぐらいあざだらけで」 日向子は長袖を脱ぐ。波風が 首元からほどいたスカーフをさらう。白いワンピースのスカートをまくしあげる。その瞬間 メイは全てを理解する。 胸元や 腕、太ももにまでつけられたキスマークの赤いあざが無数に現れる。 芽衣から余裕の表情が消える。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

203人が本棚に入れています
本棚に追加