204人が本棚に入れています
本棚に追加
「芽衣さんはまるでバージンのような素肌ですね。
私は長袖を着ないと恥ずかしくて歩けないから」
ほらこれを見て。綺麗でしょ?
キスマークがさくらの花びらみたいなの
愛されたら体の中でさくらが咲くんだって
聡志がね、見せてくれたの
私の中に流れるのは、復讐の汚れた血だとばかり思っていた
けれど 内出血したあざは、まるで満開に美しく咲いた桜色だったの。淡いピンク色ではなく紅桜の鮮やかな赤。
遥か昔より、身分の高いものしか着用できなかった禁色の赤色で、一糸纏わぬ体を染め上げられた。
黒いと思っていた血が浄化されていく。
一緒に見た朝日は夜明けの空の黄みのかかった曙色。
日の光はどんどん移り変わるんだって
暗い夜は終わりにして、空は明るくなってもいいんだって
血を流すほどの大怪我をする必要はない、と教えてくれた。愛される意味を今朝 知った。
あなた達に関わってる暇なんかない
日向子は芽衣を正面から見つめて宣言する。
「私達家族は、幸せになる」
そして正人と桜に呼びかける。
「ほら、もう行くよ。おばあちゃん達が待ってる」
「はぁ~い」
子ども達が日向子と芽衣を追い越し、海辺から砂浜を走ってホテルに続く石造りの急勾配の階段を上る。日向子は正人と桜が大きく手を振る姿に笑顔で返す。
そして、少し離れた場所に落ちたスカーフを拾い上げる。しかし、海は風が出てきたせいか、再びスカーフは拾い上げた手から離れ青い空に舞い上がる。
日向子が顔を上げるといつの間にか芽衣の姿はなく、すでに階段を登り切っていた。桜のホテルに向かって歩く背中が見える。正人が階段の上で日向子を待っている。
「お母さんも早く!」
「今行くね」
正人の弾ける笑みに微笑みを返した瞬間、日向子の心が凍りつく。芽衣の悪魔のような顔が白日の太陽の元に現れる。
白い華奢な腕が冷酷に正人の背中を押す。
「うわ〜」
「まさとっ、危ない!」
悲鳴と共に正人が階段から転げ落ちた。急な階段でゴツゴツした石は滑りやすく、途中で止まることはできない。
「正人、まさとっ」
砂だらけでうずくまる 息子に日向子は無我夢中でで駆け寄る。
最初のコメントを投稿しよう!