盂蘭盆会(うらぼんえ)

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「芽衣さんはまるでバージンのような素肌ですね。 私は長袖を着ないと恥ずかしくて歩けないから」 ほらこれを見て。綺麗(きれい)でしょ? キスマークがさくらの花びらみたいなの 愛されたら体の中でさくらが咲くんだって 聡志がね、見せてくれたの 私の中に流れるのは、復讐の汚れた血だとばかり思っていた けれど 内出血したあざは、まるで満開に美しく咲いた桜色だったの。淡いピンク色ではなく紅桜(くれないざくら)の鮮やかな赤。 遥か昔より、身分の高いものしか着用できなかった禁色(きんじき)の赤色で、一糸(まと)わぬ体を染め上げられた。 黒いと思っていた血が浄化されていく。 一緒に見た朝日は夜明けの空の黄みのかかった(あけぼの)色。 日の光はどんどん移り変わるんだって 暗い夜は終わりにして、空は明るくなってもいいんだって 血を流すほどの大怪我をする必要はない、と教えてくれた。愛される意味を今朝 知った。 あなた達に関わってる暇なんかない 日向子は芽衣を正面から見つめて宣言する。 「私達家族は、幸せになる」 そして正人と桜に呼びかける。 「ほら、もう行くよ。おばあちゃん達が待ってる」 「はぁ~い」 子ども達が日向子と芽衣を追い越し、海辺から砂浜を走ってホテルに続く石造りの急勾配(きゅうこうばい)の階段を上る。日向子は正人と桜が大きく手を振る姿に笑顔で返す。 そして、少し離れた場所に落ちたスカーフを拾い上げる。しかし、海は風が出てきたせいか、再びスカーフは拾い上げた手から離れ青い空に舞い上がる。 日向子が顔を上げるといつの間にか芽衣の姿はなく、すでに階段を登り切っていた。桜のホテルに向かって歩く背中が見える。正人が階段の上で日向子を待っている。 「お母さんも早く!」 「今行くね」 正人の弾ける笑みに微笑みを返した瞬間、日向子の心が凍りつく。芽衣の悪魔のような顔が白日の太陽の元に現れる。 白い華奢(きゃしゃ)な腕が冷酷に正人の背中を押す。 「うわ〜」 「まさとっ、危ない!」 悲鳴と共に正人が階段から転げ落ちた。急な階段でゴツゴツした石は滑りやすく、途中で止まることはできない。 「正人、まさとっ」 砂だらけでうずくまる 息子に日向子は無我夢中でで駆け寄る。
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