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「おか〜さん。おばさんのくれたパン 食べていい?」
「いいよ、でも 1個だけね 、明日はごちそうだから今日はこれで我慢しよう」
「えーじゃあ。お母さんと 半分こ」
「いいのよ 食べなさい」
「半分こ!」
日向子は渡されたパンを半分にした。大きい方を正人に渡す。
「おいしいね。明日 聡志おじちゃんとお出かけ楽しみだね」
「ごちそう いっぱいあるからお行儀よくね」
「はぁい」
6歳の息子の正人は、にこりと笑顔を見せた。大きな目が日向子によく似ている。
準備は整った。明日は3月3日のひな祭りの夜だ。男雛と女雛が隣で仲良く並んでいる様子がCM のテレビに映し出される。
良い結婚に巡り合えるようにと、親から子へ送られる 雛人形は祝福の思いを込めて飾られる。
下段の左に橘の木、 右に桜の木が置かれるが、桃色の優しい桜が真っ赤な血の色に花開いたらどうなるのだろう。狂い咲く桜は人形たちを幸せの最上段から引きずり降ろせるだろうか
雄太とやり直すためではない。
私を裏切った人が血を流せばいい
正人、今日まで我慢させて悪かったね
これから、 あなたに全てをあげる
日向子はいつものように本を閉じ 、かりそめの笑顔を浮かべる。女から息子を寝かしつける母に戻り、布団に横になった。
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