節分の鬼

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結局 雄太は売上を伸ばせなかった。日向子達夫婦が市内の新店舗をオープンさせるのとは反対に、雄太は郊外の小さな店へと追いやられた。 「帝」は元々は義父が結婚後に立ち上げたお店で、新谷家の経営する店の第1号店だ。 当時は近くに工場もあり、社宅やアパートに住む独身と家族層から人気を得て繁盛していた。しかし工場が閉鎖された後は徐々にお客さんも少なくなり、近所の常連に支えられて 細々とやっていると恵子から聞いた。 芽依も手伝わずスタッフも少ないので、最近はお義父さんがしょっちゅう手伝いに来るそうだ。 桜の中学からも遠いので、妻と娘は今まで通りマンションで暮らし、雄太だけが店舗の2階で仮住まいをしている。2階は住居スペースで、恵子も聡志を産んですぐに店を手伝いながら暮らしていたと話す。しかし、恵子の声は明るい。 「雄太君、週末もマンションに帰らないのよ。1人が気楽なんじゃないかしら。 スタッフはね、男の人ばっかりだから芽衣が騒がなくなって落ち着いてる。 あそこを任せてよかったわ。お父さんもよく泊まってくるのよ。新しい生きがいができて何よりよ。もっと働いてもらわなきゃ」 「そうなんですね」 もう夫婦仲は完全に冷え切っているようだ。日向子は神妙な顔で答えながら、晴れやかな気持ちになる。努力が報われたような満足感が抑えきれない。 芽衣、私たち夫婦を離婚させるつもりだったのに残念でした 音を上げたのは雄太が先でしたね 本日は定休日の札がある。やはり貸切だ。 日向子は恵子と正人とともにお店に入ると雄太が出迎える。とても嬉しそうだ。 「いらっしゃい。今日は来てくれてありがとう」 「おじさん 来たよ。いい匂いする」 私達ではなく、特に正人に向けて話しているように見えた。恵子は慰めるように雄太に声をかける。 「小さなお店だけど、来てくれるお客さんを大事にしてね」 「最近とても楽しい、と思えるようになりました」 「なら良かった。そういえば雄太君、実家には帰ってるの?渡会のお父様とお母様は元気?」 「いえ、帰ってないので」 「芽衣が嫌がるのよね。ごめんなさい わがままな子で。受験終わったら一度桜を連れて顔見せてあげて」 「……コース料理 楽しんでいって下さい。腕をふるいます」 雄太は厨房に戻っていく。家族を信用できず、芽衣に裏切られ、息子を目の前にしても何も言えず黙々と働く。自業自得だと思うが、日向子は初めて雄太が哀れに見えた。
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