節分の鬼

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白いコックコートを着た雄太の目には戸惑いと、 後悔の念が(にじ)む。 「やめるんだ。オレが悪い。全部悪い」 「全部?だったらあたしの人生、全部返せ!16年前に戻れるなら結婚しない!」 恵子は目を見開いて、壊れていく娘を見守る。 日向子は口の中で血の味がするのに気づいた。手で口を(ぬぐ)うと、真っ赤な血がついた。先ほどの料理の味はすっかり消えた。平手打ちの強さが恨みの深さとシンクロしている。日向子は思う。 鮮血は思色(おもいいろ)だ。思ったよりも鮮やかな赤。 私の血はもっと(にご)った汚い色かと思ってたのに。 いや、違う。もう16年前の私ではない 血液は毎日新しく作られて体中を巡るから、過去にとらわれるより前に進めたのかな 聡志。今までありがとう そして、日向子は必死に正人を逃した雄太にも初めて感謝する。 「ごめんな、おばさんは桜の受験のストレスでおかしくなったんだ。病院にも通ってる。言ってることは気にするな」 謝りながらタクシーに乗せてくれた。正人との交流が、鬼と化していた雄太を人への道に戻したのか。 今日は 節分なの 魔を滅しなければ春は訪れない 日向子は雄太を押しのけ芽衣の前に立つ。悪態をつく血走った目を正面から受け止める。そしてまるで機械の音声のように抑揚なく話す。 「芽衣さん。白血病って知ってますか? 血液のがんです。 毒を帯びたままの血液は死に至るんです。 白血球細胞が無限に増える病気です。 正常な血が作れなくなります。 恨みつらみの詰まった細胞がどんどん増えて(あふ)れてまともな細胞の邪魔をする。 血は真っ赤なのに白く見えたのが病気の由来なんですって」 「意味わかんない。だから?まともじゃないのはあんたの方で……」 「そう。まるで私のようね。 血縁を全て壊す。 純潔の白をまとい、何色にも染まります、と嘘をついて新谷家に入り込む 病原菌」 全員の視線が日向子に集まる。 鬼退治の始まりだ。 全ての鬼を滅するの。 私の心の中にも、雄太や芽衣の中にも白い鬼の血が混ざる。 高潔なふりをして言い訳をしても、ただひたすらに自分の欲望に走る。 優しさや慈愛とは無縁の汚れた血 この中で人間は、お義母さん ただ一人 斤を持ち、正しい裁きを下せるのは恵子しかいない。
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