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恵子は肩で一息ついて静かに語り出す。
「日向子さん。正人が誰の子かは知っていました」
次は日向子が驚く番だ。
そして恵子が驚くべき真実を語り出す。
「聡志から聞いたんじゃないわ。
いつだったかしら。正人が小さな頃、小学校に上がる前ね。あなたたちの家に保育園の送り迎えをしたことがあったわね。短い時間なら留守番もした。
ある日、ひなさんが電話してる間、保育園で借りてきた本を読み聞かせたら正人が棚の上をさして
『お母さんもよんでる本があるよ。でも悲しいお話だから いつも一人で読んでる。
だってぼくがおふとんに行くと、泣いてるんだ。
だから字を早くおぼえるんだ。
楽しいお話をぼくがたくさんよんで、
お母さんにおしえてあげるんだ』
って教えてくれてね。
どんな本か気になって手に取ったら、赤字の婚姻届を見つけた。そこで全て分かったの。
ああ、ひなさんは復讐のために我が家に乗り込んできたんだって」
「知ってたなら結婚反対してよ!
実の娘がひどい目に遭ってるのに、ただ見てただけなんて 母親のすること?呆れた。
我が子を命がけで守るのが親ってもんじゃないの!?」
「その通りね。命をかけるか。
でも、肝心なことを忘れてる。
誰のために 鬼になったの?
雄太君は自分のためだけど、ひなさんは違ったのよ。
許せなかった。恨みもあった。
でも、全てはまさ君のため。
新しい父親もお金も、貧困から抜け出すために命さえ、すべてまさ君にあげるため」
日向子の両目から涙がすべり落ちる。
芽衣は眉を釣り上げる。
恵子が芽衣に静かに問いかける。
「芽衣は?誰のため?」
「それは……」
「私が結婚に反対しなかったのは、聡志がひなさんを愛していると言ったから。聡志がいいならいいのよ。
芽衣も愛した男が妻と子どもを捨てた鬼畜って知ってて、結婚したのよね」
「妻子じゃないし!」
「婚約してたんなら 似たようなものでしょう。
自分も子ども作れば勝ちだって、奪えるって思ったのよね?自分勝手な鬼だこと」
「違う!ゆう君はあたしを選んだの!
愛し合ったから子ども作ったの。順番が逆で結婚が後だっただけ!」
「自信があるならどうして聡志が結婚するとき、
お母さんに話さなかったの?いくらでも言えた。
やましいことがあったから話したくなかったんじゃないの?」
「それより、こいつが悪いでしょ。 逆恨みもいいとこだわ。全て知ってて、私たち家族に近づいた。
お兄ちゃんまで取ってお母さんを騙した。だから最初に結婚反対したのに。」
芽衣はどこまでも自分勝手な言い訳をする。
でも私には選択肢はない
何を言ったところで真実だから、次は責められる
そう覚悟したが、意外にも恵子が芽衣に食い下がる。
「あなたは全て知ってて雄太君と家族になった。なのに、なぜ正人に冷たくしたの」
「は?あたしの子じゃないし」
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