204人が本棚に入れています
本棚に追加
「相変わらずだな 。俺たちの都合もあるんだから合わせろよ」
兄の態度に腹が立ったのか、妹は乱暴に椅子に座り反論する。
「お兄ちゃんこそ勝手だよね。お雛祭りは1年に1度しかなくて、すごく大事な日なんだから。今日 片付けとかないとお嫁に行けなくなっちゃう」
「今時 バカバカしい。迷信だ。夜 祝っとけよ。
そんで片付けろ」
「お兄ちゃんこそ勝手だよね。まっ、子どもいないから分かんないか。
自分が種なしだから『子どもが欲しい』っていう奥さんから離婚されたくせに。今度はシングルマザーと再婚?懲りないったら」
一瞬にして空気が凍りつく、聡志が黙って芽衣を睨みつけると、芽衣の夫らしき男性が慌てて2人の仲裁に入る。
「やめとけよ。お義兄さんの祝いの席だろ。子どもが見てる。失礼しま……」
謝罪が止まる。動作も止まる。雄太の顔つきが変わる。日向子はあえて真正面から挨拶する。
「いいえ。聡志さんは私にはもったいないぐらい素敵な男性です。愛しているので気になりません。
初めまして 古月 日奈子と申します」
「こづき ひなこ?ひなこ。ひな……」
芽衣が眉をひそめ、ひなこ、と名を繰りかえし呼んでいたが、やがて持っていた箸を机の上に落とし、日向子を食い入るように見る。
「息子の正人ともども、よろしくお願いします」
日向子が深々と頭を下げ、聡志が強めに主張する。
「結婚するんだから新谷 だ。
新谷日向子と 新谷正人」
お義母さんは苦虫を噛み潰したような顔で、失礼な言動をする娘を咎める。
「芽衣、お義姉さんになる人よ。仲良くして。
世の中には 努力してもどうにもならないこともあるの。聡志は正人君の父親になる。
ひなさんごめんなさいね。娘夫婦なの。
渡会雄太君と聡志の妹の芽衣。その娘の桜よ」
恵子は娘夫婦に目配せし、座るように合図する。
しかし 2人とも 棒立ちのままだ。
話すこともできないほど驚いた?
まさか 略奪した彼の元カノが戻ってくるとは想像してなかったよね。
時を経ても変わらない、人を見下す口調に虫唾が走る。芽衣は私と連れ子の正人を交互に見る。
最初のコメントを投稿しよう!