桃の節句

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「相変わらずだな 。俺たちの都合もあるんだから合わせろよ」 兄の態度に腹が立ったのか、妹は乱暴に椅子に座り反論する。 「お兄ちゃんこそ勝手だよね。お雛祭りは1年に1度しかなくて、すごく大事な日なんだから。今日 片付けとかないとお嫁に行けなくなっちゃう」 「今時 バカバカしい。迷信だ。夜 祝っとけよ。 そんで片付けろ」 「お兄ちゃんこそ勝手だよね。まっ、子どもいないから分かんないか。 自分が種なしだから『子どもが欲しい』っていう奥さんから離婚されたくせに。今度はシングルマザーと再婚?懲りないったら」 一瞬にして空気が凍りつく、聡志が黙って芽衣を睨みつけると、芽衣の夫らしき男性が慌てて2人の仲裁に入る。 「やめとけよ。お義兄さんの祝いの席だろ。子どもが見てる。失礼しま……」 謝罪が止まる。動作も止まる。雄太の顔つきが変わる。日向子はあえて真正面から挨拶する。 「いいえ。聡志さんは私にはもったいないぐらい素敵な男性です。愛しているので気になりません。 初めまして 古月 日奈子と申します」 「こづき ひなこ?ひなこ。ひな……」 芽衣が眉をひそめ、ひなこ、と名を繰りかえし呼んでいたが、やがて持っていた箸を机の上に落とし、日向子を食い入るように見る。 「息子の正人ともども、よろしくお願いします」 日向子が深々と頭を下げ、聡志が強めに主張する。 「結婚するんだから新谷(しんたに) だ。 新谷日向子(しんたにひなこ)新谷正人(しんたにまさと)」 お義母さんは苦虫を噛み潰したような顔で、失礼な言動をする娘を(とが)める。 「芽衣、お義姉さんになる人よ。仲良くして。 世の中には 努力してもどうにもならないこともあるの。聡志は正人君の父親になる。 ひなさんごめんなさいね。娘夫婦なの。 渡会雄太(わたらいゆうた)君と聡志(さとし)の妹の芽衣(めい)。その娘の(さくら)よ」 恵子(けいこ)は娘夫婦に目配せし、座るように合図する。 しかし 2人とも 棒立ちのままだ。 話すこともできないほど驚いた? まさか 略奪した彼の元カノが戻ってくるとは想像してなかったよね。 時を経ても変わらない、人を見下す口調に虫唾が走る。芽衣は私と連れ子の正人を交互に見る。
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