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コップの飲み物が揺れるほど、芽衣はテーブルを強く叩いて取り乱す。
「は?ここは来月から、ゆう君に任せるって言ってたよね?将来のための経験だって……」
「だってあなた達、今の家からは遠いから桜ちゃんは引っ越さなきゃならなくなるのよ。
やっぱり仲のいいお友達と離れるのは嫌よね?
大丈夫、おばあちゃん、ちゃんと考えといたから」
恵子さんが笑顔を見せると、桜は素直に喜んだ。
「やったあ〜!」
対照的に 芽衣の顔が苦痛に歪む。
「どういうこと?お兄ちゃんに店も住むとこも用意するって?その人他人だよ。何で良くするの!」
子ども達がビクッと体を揺らす。聡志が声を荒げる。
「やめろよ。その人って何だ 。お義姉さんって呼べ」
「嫌!」
緊迫した雰囲気の中、メインの料理が運ばれてきた。ここでお店の人が小さなエプロンを2枚持ってくる。
実はこの店こそ新谷家の経営する中華料理店であり、聡志と日菜子が新年度より働く店だ。
土日に家族向けの企画として、コース料理を注文すると小学生以上の子ども達が家族全員分のデザートを作る企画を立案した。子供向けの体験企画は日向子の案だ。
説明を受けて正人と桜は、スタッフに連れられて部屋から出た。大人のみの密室で、ついに芽衣の本性が炸裂する。
「あたし、認めない。お兄ちゃん 騙されないで!この家を乗っ取られる!」
恵子が呆れたように実の娘を見る。
「芽衣……失礼なこと言わないで 。ドラマばっかり見てないであなたも雄太君の店に顔出してよ。桜も保育園にいる間は時間あるでしょうが」
「話をそらさないで。
お兄ちゃんだって店に興味なかったくせに今更何?
お母さんだって私達夫婦にいずれ任せていきたいって言ったくせに!」
「任せられないから、聡志にしたのよ!
さっきのスタッフへの態度も何なの!
一緒に働く相手を無視するなんて。えらそうな態度はね 、すぐに周りに気づかれるのよ。
そんな店主についてくるわけない。
だからあんたに任せられない!雄太君 一人では荷が重すぎる」
厳しい口調で経営者の義理母は実の娘を一喝する。
その後、恐縮するように 小さく椅子に座る娘婿にに労いの言葉をかける。
「ごめんなさいね 。あなたが悪いって言ってるわけじゃないのよ。雄太君はもちろんよくやってる。
ご実家もしっかりしているから人として問題ないわ。お店の売り上げも悪くない。
ただ、雰囲気を大事にするこのお店は、昔からの なじみのお客様が多い。アットホームな雰囲気が大事なの。
聡志と、ひなさんの仲の良さで盛り返してもらいたいの」
納得いかないようだったが、夫を褒められたことに 芽衣は気を良くする。
「そうよ。ゆう君はすごく 優秀なの。有名大学出身で、お義父さんは大企業の重役だし、お母さんは研究者なんだから。お義姉さん達だって、有名大学卒業のキャリアウーマンなんだから」
まるで自分のことのように威張る芽衣に生い立ちを説明されたが、雄太は下を向いたままだ。
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