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「君の息子が報告書を書いて出せばいい。それで丸く収まるじゃないか」
「い、いや、いくら何でも無理です。消防署には管轄というものがありますから。その候補者が息子の勤める消防署の管轄内にいれば話は違いますが、それはまず無理でしょう。管轄という問題を無視して出しゃばることはできないですよ」
佐貫はしばし口を引き結んで黙り込んだが、すぐに納得したように頷いた。
「だったら、目的地があるところへ異動したらいいじゃないか。うん、そういうことだよ。ヤツの事務所がどの辺になるかは直に分かる。それは私に任せてもらおう」
流山は立ち上がり、不敵に笑った。「これまで面倒見ているんだ、一度くらい、わしの頼みをきいてくれてもいいと思うが」
(う)
新蔵は項垂れ、床を見つめ、やがて顔を上げた。
「い、いつまでに」
この言葉に佐貫は破願した。
「そうか、やってくれるかね、よかったよ。さすがわしが見込んだだけのことはある。ことが終わったら、君の息子がもっともらしい報告書を書いておしまいだ。簡単だろう」
「い、いや、簡単、では」
「とにかくよろしくたのむよ。はは、断られたらどうしようかと思っていた」
うんうんと頷く流山。「期限はね、もちろん投票日の前日までだよ」
新蔵は少しほっとした。今週中になどと言われたらどうしようかと考えていたのだ。
「君の息子はまだ独身だそうだね」
「え、ええ」
「今度、嫁を世話してあげよう」
「い、いえ、もったいないことです」
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