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 このことを告げると流山は、それ見たことかと顔を輝かせた。 「そうなんだよ、甘やかしすぎたんだ、あんたがしっかり手綱を持ってくれないか」  と、逆に頼られてしまった。  木更津も「シンさんならやれますよ、頑張ってください」と励ましてくれた。 (仕方ない)  とはいうものの、いくら国会議員の秘書といっても、佐貫陣営で新蔵は新参者である。立場は弱い。新蔵の提案は、ほとんど受け入れてもらえなかった。  選挙戦は日を追うごとに検見川の勢いは増していった。 「どうだ、その後」  流山から問われ「ええ、まあなんとか」としか言えなかった。 「歯切れが悪いな、やることやっちゃえばいいんだ、言ったろう」 「いや、しかし」 「副知事、なりたくないのか」 「い、いえ、なりたいです」あの時いなかったのに、なぜ知っているのだと疑心を抱きながら新蔵は答えた。 「じゃあ、やるっきゃないだろ、人間、腹をくくらねばならぬ時が一度はあるものだ。それが今だと思いなさい。さすれば道は開ける」 「はい」  所詮世の中など、一部の権力者たちの掌の上の出来事なのだ。今自分は、その世の中を動かす側にいるのだ。  選挙で勝った暁には、新平のことも気にかけてもらわなくてはと新蔵は考えた。息子の今後も安泰であってもらわねば。そうだ、そうなのだ。  毒食わば皿まで、と新蔵は覚悟を決めた。  館山新蔵は、過去に誤って人の命を奪ってしまったことがある。その際に流山に救われた恩があるのだ。
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