弥生

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 何故片貝を思いついたかというと、純奈は消防学生のころから片貝に憧れていた。それは恋愛感情といってもよかった。好きだった。だが相手は妻子ある身である。自分はただ、片貝を遠くから見ていられればよかった。そのあたりの分別はあった。思いは自分の胸に秘めていた。  もちろんこれまでの人生で何人かと交際したことはある。結婚を考えたこともないではない。しかし相手には、片貝を超えるものを持っていることを望んでしまうのだった。その条件を満たす者は、いまだに現れていない。  純奈は、どういうかたちでもいい、片貝と関わりたい、と常に思っていた。  朱里には、自分のことを片貝には言うなとは言ったが、片貝が朱里の相談に乗ってくれるとしたら、自分も片貝と会うことがあるのではないかと淡い期待をもったことも事実だった。
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