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二
館山新蔵は、地元国会議員流山旭の私設秘書で、地元後援会を担当している。
地元ではまだ雪の融けきっていない三月の初旬、新蔵は流山から東京へ呼び出された。
東京の日差しは、春が近いと思わせる暖かさだった。
「なんでしょうか。会ってから話すということでしたが」
東京の事務所で新蔵は流山と会った。霞が関にある議員事務所とは別の、私的事務所である。議員事務所には、政策秘書の木更津が詰めているらしい。
「まあ座りたまえ」
流山は恰幅のいい身体をゆらし、新蔵をソファアへ促した。
新蔵は座らなかった。
「座らんのか」
その時新蔵は、エアコンの暖気で喉を刺激され、思わず咳払いをした。
流山は「好きにしろ」と言わんばかりに口を引き結び、自分だけ腰を下ろした。
咳払いが気に入らなかったらしい。流山は、万事自分の思い通りに事が運ばないと、すぐに機嫌を損ねる。
数秒間の沈黙ののち、流山が口を開いた。
「実はな、今度地元で知事選挙があるだろう」
「はい。来月ですね」
「現職の佐貫盛久、あれは高校の後輩でね」
「はあ」
「勝ってもらいたいのだ」
「それとわたしが呼び出されたことと、どう関わるのでしょう」
流山はすぐには答えず、新蔵を見あげた。どうして座らないのかと言いたそうだ。
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