3/7
前へ
/81ページ
次へ
「それはね」  流山は、もったいぶって言葉を止め、にたりと口角を吊り上げた。  ひと呼吸してから「相手がいなくなってしまえばいいのだ」と言った。 「は」 「競争相手がいなければ、ああだこうだと悩むことはない。そう思わんか」 「おっしゃっている意味が解りかねます」  流山は目をむいた。 「ほんとか、いいいか、対立候補がいなくなればいいと言っているのだ。それだけのことだよ。わかるよね」  顔と顔の距離ニ十センチくらいにまで近づいた。  新蔵は圧倒され、後ずさりした。何も答えられなかった。 「まだわからないか。君、教えてやれ」流山は君津に目配せした。 「君津さんは、わかるのですか」 「まあ、わかります、かね」 「教えてください」 「例えば、です。投票日を前にして、対立候補が失踪したとしたら」 「ありえない」 「この世に絶対はありません。どんなことでも可能性はあります」 「競争相手がいなくなれば当選する。誰でもわかる」 「いやしかし」拉致しろとでもいうのか、新蔵は流山の人間性を一瞬疑った。 「君の息子、消防に努めているそうじゃないか」 「え、ええ」 「火災調査の担当をしているそうだが」  何故そこまで知っているのだと新蔵は目を剝いた。 「対立候補、選挙のプレッシャーで思い悩み、焼身自殺、なんてことになったら、どうだね」 「いやしかし」何を言いだすのだこの人はと新蔵は流山を凝視した。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加