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「それはね」
流山は、もったいぶって言葉を止め、にたりと口角を吊り上げた。
ひと呼吸してから「相手がいなくなってしまえばいいのだ」と言った。
「は」
「競争相手がいなければ、ああだこうだと悩むことはない。そう思わんか」
「おっしゃっている意味が解りかねます」
流山は目をむいた。
「ほんとか、いいいか、対立候補がいなくなればいいと言っているのだ。それだけのことだよ。わかるよね」
顔と顔の距離ニ十センチくらいにまで近づいた。
新蔵は圧倒され、後ずさりした。何も答えられなかった。
「まだわからないか。君、教えてやれ」流山は君津に目配せした。
「君津さんは、わかるのですか」
「まあ、わかります、かね」
「教えてください」
「例えば、です。投票日を前にして、対立候補が失踪したとしたら」
「ありえない」
「この世に絶対はありません。どんなことでも可能性はあります」
「競争相手がいなくなれば当選する。誰でもわかる」
「いやしかし」拉致しろとでもいうのか、新蔵は流山の人間性を一瞬疑った。
「君の息子、消防に努めているそうじゃないか」
「え、ええ」
「火災調査の担当をしているそうだが」
何故そこまで知っているのだと新蔵は目を剝いた。
「対立候補、選挙のプレッシャーで思い悩み、焼身自殺、なんてことになったら、どうだね」
「いやしかし」何を言いだすのだこの人はと新蔵は流山を凝視した。
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