序章 香菓の神子

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* 「では、今から、当代の香菓の神子を選定する神託の儀を執り行います」  青龍を祀る龍神神社の若き神主・久藤礼爾(くどうれいし)は厳かな声で告げた。  拝殿には、神子装束姿の少女が控えている。  日本国には、龍神が存在する。龍神は黒龍、黄龍、紅龍、青龍の四種族がおり、この龍神神社に祀られているのは青龍だった。  人嫌いの龍たちの中で、唯一、風雨を操る青龍だけが人間に友好的であり、颱風(たいふう)被害の多いこの国を、その神力で守ってきたといわれている。  かつて人間の娘と婚姻したという青龍は四龍の中で最も神力が弱い。青龍の神力を補うことができるのは、青龍の血を引く人間の娘・香菓の神子が作る菓子だった。  橘家は香菓の神子を輩出する由緒ある家柄で、神子候補となる娘が二人いた。 一人は、現当主の姉で先代の神子だった橘菊香の娘、花織。年は十三。 もう一人は、現当主の娘、橘涼世。歳は十二。  かつて、貴族の姫君たちは裳着という儀式をもって、成人とみなされたという。橘家の娘は裳着の年頃になると、青龍に捧げる菓子を作り、龍神神社の神主により、菓子に青龍の神力を補う力が宿っているかどうかを判別される。それを神託の儀といった。  そして、桜が満開に咲き誇るこの日。今まさに儀式が行われようとしていた。ただし、参加しているのは涼世一人。  涼世の前には八足があり、三方が置かれている。三方の上には桜を模した練り切りが載せられている。子供が作ったもののためか、あまり巧くはない。
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