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礼爾は練り切りを取り上げ、懐紙に載せた。
黒文字で切り分け口に運ぶ。
礼爾の目が、軽く見開かれた。礼爾の一挙手一投足を見つめていた関係者たちは、緊張で息を呑んだ。
礼爾は残りの練り切りを三方に戻すと、涼世に背を向けた。拝殿の奥にはしめ縄の掛かった鳥居が立っており、その向こうには龍神が御座すという龍神山がそびえている。龍神神社のご祭神は青龍そのものなのだ。
礼爾は二拝二拍手をした後、龍神に何かを問いかけるかのように目をつぶった。しばらくして目を開けると、一拝し、ゆっくりと涼世に向き直った。
「龍神の神託を申し上げます」
おもむろに口を開いた礼爾に視線が集まる。
礼爾は息を吸うと、厳かな声で告げた。
「当代の香菓の神子は、橘涼世殿がふさわしいとのことです」
関係者たちから「おお」と声が上がる。最前列に座る涼世の両親、橘繁隆と橘麻名は顔を綻ばせ、うなずき合った。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます、涼世様」
祝福の言葉を浴びて、涼世は誇らしげに胸を張った。
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