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「涼世様が正式に香菓の神子に選任されたそうよ!」
祝い膳の準備をしていた女中たちのもとに、龍神神社から戻った主人家族の出迎えに行っていた女中が報告に来た。女中たちが料理の手を止め、晴れやかな顔をする。
「まあ! やっぱりそうなると思っていたわ」
「だって、神託の儀に呼ばれたのは涼世様だけだものね」
女中たちが、台所の隅で野菜を切っている橘花織にちらちらと目を向ける。
花織は先代の香菓の神子だった菊香の娘だ。神子になる可能性はあった。本来なら、花織と涼世、二人が神前で菓子を作り、龍神にどちらが神子にふさわしいか問うべきものだったが、花織は儀式に呼ばれなかった。
「久藤礼爾様は、涼世様が神子に選ばれるはずだと、最初からわかっていらっしゃったのよ」
「さすが、龍神神社の神主様よね」
女中たちのおしゃべりを、花織は背中で聞きながら、自らを恥じるように俯いた。
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