926人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 身代わりの花嫁
黒引き振袖姿の標野琴絵は、居心地の悪い思いで、境内の玉砂利を踏みしめた。
目の前を歩く青年の背中を見つめる。
羽織袴を身に着け、立ち姿の美しい彼は、琴絵の夫になる桐山憲斗だ。
今日初めて顔を合わせた憲斗は、花嫁姿の琴絵を見ても、まるでこの婚儀が自分事ではないような冷めた目を向けただけだった。
(旦那様は、どのような方なのかしら……)
先々を考えると不安になる。
ゆっくりと歩きながら神前へと向かう琴絵の頭上で、花嫁の気持ちとは裏腹に、桜が爛漫と咲いていた。
最初のコメントを投稿しよう!