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episode 2 経験
「唯ちゃん聞いてよー!
風俗行ったの奥さんにバレてさ、
今日帰ってくるなって言われた!」
いつもの常連さんのよくある愚痴
残念ながら私はどこぞのキャバ嬢みたいに
同情はしないタイプ
「えー!もっとバレないようにやんなきゃ!
帰ってくるなってチャンスじゃん!
今日も会いに行けちゃうよ!
どんな子??見たい見たい!」
カウンターから身を乗り出して
お客さんの差し出す携帯を覗く
-みさき 20歳 業界未経験-
画面には手で口元を隠す可愛らしい女の子の写真と、プロフィールの文字が並ぶ
(はいでたー!未経験!)
心のなかでつぶやく
「可愛い子だねぇ、これはハマるわ」
本心は隠して、
お客さんの欲しい言葉をあげるのも私の仕事
「だろー!?めっちゃ可愛いんだよ!
まだ何にも知らないから、俺が守ってやらなきゃって思っちゃうんだよなー!」
自分の好きなものを肯定されたとき
人はすごくいい顔をする
私は結構、この顔を見るのが
好きなのかもしれない
ちなみに私は風俗店で働いていた経験もあるので
裏事情にも詳しかったりする
さっきの未経験とは
よくある釣り文句で、業界未経験と書いたほうがお客さんの食いつきもよく、指名が入りやすくなる傾向があるのでよく使われる
私の経験上、本当に未経験の子は
少ないんじゃないかと思われる
ちなみに私もデビューしたてのときはもちろん、
店を移ったときも未経験と書かれていた
プロフィールはお店で勝手に書かれるので
そーゆーものなのか?といつも疑問に思っていた
この世界では年齢詐称も日常茶飯事だった
驚いたのは私が30歳のとき
22歳設定で売り出されたこと
少しばかり童顔だったので実年齢よりは多少若く見えたとはいえ、あまりにやりすぎだ!と思い、店に頼み込んだ結果、24歳になった
今でこそ生きていくために必要な嘘もある、と
言い聞かせて必要なら嘘をつくこともあるけれど、
基本的に嘘が嫌いで許せない人間なので、当時は嘘をついてお客さんに指名されてお金をもらうのは罪悪感があった
その分お客さんには
精一杯気持ちを込めて尽くした
相手が求めるものを察して提供するのは
どの仕事にも共通して必要なスキルだと思う
決して美人でも、スタイルがいいわけでもない
私にもそのうちリピーターができた
自分を必要として会いにきてくれる人がいるということが、すごく嬉しかったし、ちょっと天職なんじゃないかと勘違いしそうになるときもあった
風俗の仕事は基本的には楽しかったし、
私の性的好奇心も満たされていくので
続いていたんだと思う
私は人より少し、いやかなり好奇心が旺盛で、
それは性的なことにも当てはまっていた
普通に男性と付き合って
それなりに男性経験があったけれど、
ずっと何かが足りない気がしていた
その何かに気づいたのは
風俗で働きだして2ヶ月程過ぎた頃だった
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