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フラフラする足取りで大理石の床を少し歩いたら、急に両脇の兵士達が立ち止まり。
かわりに強く、ドンっと背中を押された、
「あっ……!」
タタラを踏みながら。無様にも床の上に倒れ込むように座り込んでしまった。
スカートがふわりと空気を孕んだおかげで、怪我はしなかったが、それをクスクスと笑う声がとても耳障りだった。
それよりも、さらに耳障りな甲高い声が響く。
「吸血鬼侯爵様。お待たせしました。これがご所望の本物の聖女・イーリスですわ! どうぞお好きにして下さい」
この声こそ、本物の聖女アメリア。
どう言うことなの? と、何とかアメリアの声がした方に顔を向けると。
そこには私がいつも着ているような、質素な黒いシスター服に身を包んでいた。
ぼやける視界で表情までわからないが、赤い唇がにぃっと笑ってるように見えた。
あぁ、そうか。
やっと分かった。
底辺聖女の私は、聖女アメリアの代用品。
人の血を容赦なくすすり。人とは違い圧倒的な魔力を持ち。傲慢で冷徹。残酷と言う吸血鬼侯爵への花嫁にされたと思った。
だから、私には今の今まで誰と結婚するか伏せられて、逃げられないように薬まで盛られたのだろう。
この場から私を助けてくれる人なんていない。
さらに、ここには国の偉い人達が集まっているのに、誰も庇ってくれない。
──私は国に見捨てられたと思った。
アメリアを見るのも辛く、下を向いたら泣いてしまいそうだと思った。
代わりにコツコツと靴音を響かせて、私に近づく存在になんとか顔を向ける。
ぼんやりする視界の奥に、全身闇夜のようなマントを被っていて、威圧感ある人物が私に近づいてくるのはわかったが。
顔まではわからない。
この人がきっと吸血鬼侯爵。
聞きしに勝る。冷酷な方とかと一瞬、身構えるが。
皆はくすくすと。哀れねと、私を笑っているのに目の前の方は何故か。心配気そうに、足早に私に近寄ってくれた。
しかもみずから膝を折り、侯爵様は私の手を労わるように。優しく手を取って下さり、びっくりしてしまう。
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