吸血鬼と聖女〜序章〜

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その手はとても暖かい。 「あっ……わ、わたし」 その手からこの人は、決して冷酷な方なんかじゃないと分かった。 私なんかの手を取って下さって──と、お礼を言いたいのに口が回らなくて。 それがとても、もどかしい。 ぎゅっと手を握りしめられ。その体温は身に染みるような、優しさに満ちていて。 お顔を見たくてなんとか目をこらす。 するとフードの下から、私を見つめる瞳が見えた。 それはまるで真紅に燃える薔薇のよう。 その双眸を見た瞬間。白濁していた意識が、一瞬だけ覚醒する。 その瞳はずっと探していた人。 リオそのもの! やっぱりリオに、間違いないと名を呼ぶ。 「り、リオ」 持つれる舌を叱咤して、掠れる声で名を呼ぶと。 「イーリスッ!」 力強く私の手をより強く、ぎゅっと握ってくれた。 そして、バサリとフードを取り払うと夜空を溶かしたかのような、蒼銀の髪がはらりと溢れ落ち。その容貌が顕になった。 キリッとした凛々しい瞳は、真紅に燃える薔薇色。 その高貴な瞳は心配気に揺れていても美しかった。 筋が通った高い鼻梁も、丹花のような唇も。 全て神様が精魂込めて作った彫刻のような美貌。 その美貌が露出して、周囲がため息をこぼすほど。 私も目を見張るばかりの麗人に、息を呑む。 でも、私はこの風貌に見覚えがあった。 髪の色といい、姿といい。 やっぱりリオに違いない! リオが吸血鬼とか関係ない。 そんなのどうでもいい。 リオはリオだ。 会えたのが嬉しくて痺れる指先で手を握り返すが、弱々しくリオの手に指を重ねる事しかできなかった。 しかし、リオはしっかりと私を見て。 分かっていると言うように頷き。 私の手を愛おしげに頬ずりをして、私の胸元にある銀のロザリオを懐かしそうに見つめた。 「イーリス。あぁ、ロザリオをずっと持っていてくれたんだね。遅くなってすまない。ずっと、ずっと会いたかった──俺だけの花嫁」 その瞬間、リオに抱きしめられ。 愛しさが込み上げて、涙が溢れてしまったのだった。
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