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そんなフィリスの言葉に私ですら、反論したくなってしまう。部屋に広がる、なんとも言えない空気を感じ取ったのか。
フィリスは違うんだと言葉を重ねる。
「あんな分厚い書類に加えて、リオとかいうヤツが『聖女を寄越せ』ってずっと小煩く。しつこく何度も何度も言ってくるから、それをどうするかって、ことを検討して会議して。イーリスを差し出せばいいって、決めるのに追われていたんだよっ!
ほら、だから。中身はもちろん見たけど、他にも色々とやることが沢山あって……!」
──なんだろう。
喋れば喋るほど、恋人としてフィリスの口を塞ぎたくなるこの気持ちは。それはきっと気のせいだと思うことにして、とにかくフィリスの言い分を聞く。
「そんな最中。多忙だった僕が『魔物の討伐の制限』と言う、一文を万が一見逃していたとしても、お父様や第三者確認の秘書官が見逃すわけがない。だから、きっと、リオとか言うヤツの偽造だ! 偽造文書を用意したに決まっている!」
そう、息巻くフィリスに大臣がはぁっと大きくため息を付いた。
「もし仮に。偽造文書だとしても。一度、書類を確認致しましょう。まずはそれからですな」
と、何かを諦めたように。フィリスを見限ったように。部屋をまたドスドスと出ていき。高官達も挨拶をそこそこに、部屋を出て言った。
部屋に残されてしまった私とフィリス。
フィリスはフンと、面白くないと言った様子でどかりと、隣の席に座った。
何とも言えない空気感で、私も一緒に出ていけばよかったとか思ってしまう。
しかし、フィリスが言った偽造文書の可能性は捨てきれない。
何度も目にした訳じゃないが、吸血鬼達はいつも黒いマントを身につけて、目深にフードを被っていた。
そして、いつもコソコソとこちらを避けるような態度。グリアス国に飼われている魔物だと言う自覚がないくせに、領地を得た小狡い種族。
イーリスを渡した日だってそうだ。あのリオとか言う、新しい侯爵のことを思いだす。
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