吸血鬼と聖女〜序章〜

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吸血鬼と聖女〜序章〜

」 城内の大広間に朗々とした声が響く。 それはずっと探していた人の声に良く似ていた。 リオ。 まさか、あなたなの? 確認したくても、私の意識はクラクラとしていた。そのせいで幻聴を聞いたかも知れないと思った。 大広間は儀式などの荘重な行事が行われ、普段は荘厳な雰囲気なのだろう。 しかし今はここに集まったごく一部。王様をはじめ、貴族達の戸惑いの雰囲気に満ちていた。 そして。両脇に居る兵士達に引き摺られるように一歩広間に入ると、ここに集まった人違がばっとこちらを見る。 決して好意的じゃない、視線が肌に突き刺さった。 意識が朦朧としていも、人の視線はこうも感じるのかと思ってしまう。 思わず失笑したくなるのに、舌が痺れて声も出せない。 それでもリオらしき声のお陰で、意識を何とか手放すまいと、拳に力を込める。 「……っ」 私がこんな事になっているのは、急な結婚を強引にでも進めるため。 私にきっと余計なことを言わせない為に、先ほどの食事に何かあまり良く無いもの──毒を仕込まれたと思った。 まさか、ここまでされるとは思ってはいなかった。 私が底辺聖女なんかじゃなくて、本物の聖女だったらこんな毒、治癒出来るのに! ぎりっと歯を食い縛るはずが、ぐぅっと気怠げな声しか出ないのが情けない。 ほら早く歩けと、また兵士に引きずられ。大広間の中央まで連れて行かれる。 広間の四方の壁には、見事な金細工の装飾があり。各柱部分にはクリスタルなども埋め込まれているせいか、大窓から明かりが差し込み。 キラキラと光を反射する様子が今は煩わしかった。きっと平素ではそれは美しい広間なのだろう。 でも、今はキラキラする光が目に痛い。 それに無遠慮に腕を掴まれている感触が気持ち悪かった。頭が痛い。足がもつれる。 それでもリオの姿を確認したくて顔を上に向けると、くらりとまた目眩がして。 大広間の天井画に描かれた、天使や女神の絵画がぐにゃりと歪む。 私が今着ている服装はいつもの粗末な修道(シスター)服じゃなくて。花嫁みたいな白い豪奢なドレスでとても重い。 胸元をきゅっと締め上げている、コルセットも苦しい。 こんなドレスを着たくなんかなかった。 私はただ、リオにもう一度会いたかっただけなのに。
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