325人が本棚に入れています
本棚に追加
「そのようだな」
そのくらい、ユージーンだって手紙を読んだ時点で把握している。
「断れるわけないじゃないですか。しかも相手が、よりによってベネノ侯爵令嬢とは……」
ネイサンが熱くなれば熱くなるたびに、ユージーンは冷静になれる。
「彼女を知っているのか?」
「知っているも何も……。彼女は、社交界の毒女として有名ですよ?」
有名と言われても、社交の場からめっきりと遠くなったユージーンにしてみれば、初耳である。
――断れない縁談。
――その相手が社交界の毒女。
となれば、この縁談に何かしらの意図を感じる。
「この毒女……ではなく、クラリス嬢ですが。アルバート王太子殿下の腰巾着としても有名でしたからね」
アルバートの名が出たところで、ユージーンは無意識に口の端をひくっと動かした。
「アルバートの腰巾着、だと?」
「ええ、これも有名な話ですよ。社交の場では必ずアルバート王太子殿下の側に張り付いていて、殿下が料理を褒めて口にしようとすると、脇からそれを奪い取るって。まぁ、僕もそんな話は噂だと思っていたんですけどね」
最初のコメントを投稿しよう!