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おもわずクラリスの口から、情けない声が漏れた。だが、すぐにきりっと顔を引き締める。
「ですが、この結婚は離婚前提で受ければよい、離婚約であると、そう提案されたのは旦那様ですよね?」
「ああ、そうだ。だが、気がかわった」
すっと立ち上がったユージーンは、クラリスの隣に座り直した。彼の重みによって、ソファが沈む。
「俺は……この結婚を離婚約にするつもりはない」
「え?」
「俺は君に惚れたんだ。毒蛇を両手に持って俺を出迎えたあの姿。あれは、衝撃的だった。それと同時に、俺の心臓は打ち抜かれた……」
「もしかして、吊り橋効果というものでは? 恐怖を覚えたときに出会った異性に対して、恋愛感情を抱きやすくなると言われているではありませんか」
「たとえそうであったとしても、俺はかまわない。少なくとも、君は今、俺の妻だ」
「ですが、それは紙切れ一枚の薄っぺらい関係です」
ユージーンの鉄紺の瞳は、まっすぐにクラリスを射貫く。
「今は薄っぺらい関係だとしても、俺が君を愛するのに、何か問題はあるのか?」
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