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温室内をぐるりと見回して、ここで育てている植物の成長を確認する。まだ摘み頃の花はないが、水が足りていないようだ。
「あの、旦那様。花に水やりをしてもよろしいでしょうか?」
クラリスにとってはいつものこと。だけどユージーンはこの温室に来たのは初めてあるし、きっと手持ち無沙汰になるだろう。
「そちらに休憩用の椅子がありますので」
そこで座って待ってもらうつもりだった。
しかしクラリスがじょうろを手にして水を汲みに行こうとすると、ユージーンが後ろからついてくる。
水は井戸から汲み上げる必要があるが、その井戸は温室の近くにある。彼はクラリスがやろうとしていることに気がついたようで、ひょいっとじょうろを奪うと、井戸から汲んだ水でじょうろを満たした。
「あ、ありがとうございます」
「温室まで俺が運ぼう」
水によって満たされたじょうろはそれなりに重いものの、クラリスが運べないほどではない。それでも彼の気持ちをありがたく受け入れる。
「ここで、大丈夫です」
ユージーンからじょうろを受け取ったクラリスは、それを傾けて草花に水をやり始める。土の色が変わり始めると、湿った土の匂いが漂う。
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