プロローグ

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 ハリエッタの手からはするっとグラスが落ちて中身がこぼれ、ドレスに大きく染みを作った。数滴跳ねたというものではなく、ビシャッと音が聞こえ、周囲の視線を集めてしまうほどであった。  クラリスは間違いなくその場の邪魔をした。むしろ意図的に邪魔をした。  アルバートは、すぐさまハリエッタをエスコートして退席する。残されたクラリスは、近くにいた給仕からグラスを受け取り、それを一気に飲み干してから周囲を見回した。 『このような下品な飲み物を準備したのは、どなたかしら? わたくしの口には合わないわ』  安っぽい酒だとでも言うかのように威圧する。こそこそとクラリスを揶揄する声が聞こえてきた。もう一度会場内を大きく見回したクラリスは、カツンカツンとヒール音を響かせ、その場から立ち去ったのだ。  しかし、今振り返ってみても、確かにあれは失敗だった。誰が見てもどこからどう見ても、悪いのはクラリスである。 「……それに、クラリス」  アルバートは、まだまだクラリスに咎があるような言い方をする。 「君は私の側にいすぎなんだよ。私の隣にはもう、ハリエッタという女性がいる。立場をわきまえてほしい」
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