325人が本棚に入れています
本棚に追加
ハリエッタの手からはするっとグラスが落ちて中身がこぼれ、ドレスに大きく染みを作った。数滴跳ねたというものではなく、ビシャッと音が聞こえ、周囲の視線を集めてしまうほどであった。
クラリスは間違いなくその場の邪魔をした。むしろ意図的に邪魔をした。
アルバートは、すぐさまハリエッタをエスコートして退席する。残されたクラリスは、近くにいた給仕からグラスを受け取り、それを一気に飲み干してから周囲を見回した。
『このような下品な飲み物を準備したのは、どなたかしら? わたくしの口には合わないわ』
安っぽい酒だとでも言うかのように威圧する。こそこそとクラリスを揶揄する声が聞こえてきた。もう一度会場内を大きく見回したクラリスは、カツンカツンとヒール音を響かせ、その場から立ち去ったのだ。
しかし、今振り返ってみても、確かにあれは失敗だった。誰が見てもどこからどう見ても、悪いのはクラリスである。
「……それに、クラリス」
アルバートは、まだまだクラリスに咎があるような言い方をする。
「君は私の側にいすぎなんだよ。私の隣にはもう、ハリエッタという女性がいる。立場をわきまえてほしい」
最初のコメントを投稿しよう!