プロローグ

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「つまり、クラリスに結婚をしてもらえばいいと?」 「……嫌です」  クラリスは、ハリエッタが答えるより先に言葉を奪った。 「結婚だなんて、わたくし……。結婚は足枷にしかなりません」  力強く両手を握りしめる。怒りでおかしくなりそうだった。 「クラリス様。これはクラリス様のことを思ってのことなのですよ?」  ハリエッタの声色もやわらかい。それでも目つきは針のように鋭い。 「ですが……わたくしが嫁いだらベネノ侯爵家は……」 「デリックがいるだろう?」  デリックとはクラリスの四つ年下の弟である。今年で十七歳になった。 「あれだってもう一人前だ。いつまでもクラリスが出しゃばる必要はない」 「……そうですが」  それでもデリックは弟なのだ。いくつになっても弟は弟。 「君だって、もう二十歳を過ぎた。婚約者の一人くらい、いたっておかしくはない年頃だろう?」  それはずっとアルバートの側にいたからだ。今までもこれからも、彼の側にいられると思っていた。必要にしてくれると信じていた。 「アル様。私、クラリス様にお似合いの殿方を知っておりますの」
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