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エーテリナ王国の高台にそびえ立つ魔女の石像のキャリーナは、眼下に広がる街並みを眺めてため息をついていた。
そこへ顔馴染みのカラス、ザギルが飛んできて肩に止まった。
『キャリーナ、今日は踊りたくなるくらいいい天気なのに一段とシケた面してんな。ああ、石像だからいつもか。かかか。』
『おはよう、ザギル。朝から憎まれ口がよくまわること。でもね、あなたは鋭いわ。私は確かに憂いていたの。』
ザギルは何かとキャリーナの傍に来てはからかい、やりとりをするのが好きだった。鋭いと言われて何だか嬉しい。さらに憎まれ口は止まらない。
『はぁ?地位も名誉もすべて手に入れたあんたに憂うことなんてあるわけないだろ?』
キャリーナは王室に仕える魔女だった。この王国の繁栄はキャリーナの力添えが無ければ成し得なかったことは誰もが認めていた。
その功績を称え王国の一番見晴らしが良いところに石像が建てられ、キャリーナは王室から引退する時に自ら魂となり石像に宿ったと伝えられている。
『いいえ、ここに立って人々の生活を見ていると思うところがあってね。ちょうどあなたに届けものを運ぶ役目をお願いしようと思っていたの。』
『届けものだって?
どっかの童話の偽善鳥みたいな役目なんてまっぴらごめんだね。』
ザギルは怒ったふりをして両方の羽を逆立てそっぽを向いた。
そう、"ふり"なのだ。
心の中は面白いことが起こりそうでワクワクしていた。
『偽善鳥なんて言うものじゃありません。あれは立派な物語よ。』
キャリーナは窘めたが、その声色は笑っていた。ザギルが怒ったふりをしながらも喜んで協力してくれることを見抜いていた。
『そうね、ザギル。あなたにはもっとスカッとするものを届けてもらうわ。ますばこれを見てちょうだい。』
キャリーナはそう言うとザギルに自分の目を覗き込ませ、街角の一角を映し出した。そして自分の計画を話した。
『それは面白い!やってやろうじゃないか!』
ザギルは鼻を膨らませ、意気揚々と答えた。
『よかった!ではお願いね。まずは必要な力を授けるから私の杖に乗ってちょうだい。』
ザギルは『あいよ!』と言うと、魔女の左手が握っている棒の頭に止まった。すると足元の石の杖から足へ光が伝わるのが見えた。
『これで魔法は使えるはずよ。さあ、行って!』
キャリーナが勢い良く言うと、魔法の力を得たザギルも勢いよく飛び出した。
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