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素晴らしいお天気の昼下がり。 アンディは両手をしっかり握り合わせ微動だにせず街外れの公園のベンチに座っていた。 "彼女は来てくれるだろうか" 彼は最後の審判を受けるような気持ちで待っていた。 そこへブロンドの巻き毛に大きなリボンを付けたイザベラが歩いてきた。 横から『アンディ』と声を掛けらた彼はあからさまに落胆した。声ですでに彼女ではないとわかったからだ。 『アンディ、あのね、サラはあなたからの手紙を受け取ってくれなかったの。それで私、動揺して手紙を落としてしまって、その拍子に中身を見てしまって…。 とりあえずサラが来ないことを伝えなくちゃって…』 イザベラがここまで一気に喋った時、突然もの凄く強い風が吹いてきて2人はそれぞれに顔を手で覆った。 そして風が止んで手を外すと、ベンチの向かいの芝生の上にサラサラの黒髪を風に靡かせた女性が立っていた。 アンディはすぐさま駆け寄り、女性の手を取って喜びの声を上げた。 『サラ、来てくれたんだね!今、イザベラから手紙を受け取ってくれなかったと聞いてガッカリしていたところだったんだけど…』 アンディに手を握られたサラは頬を赤くして微笑んでいたが、手紙と聞くと首を傾げて『手紙って何のこと…?』と穏やかに彼に聞き返してきた。 アンディには閃くものがあったが、今はサラとの話が先だ。 胸のポケットから小箱を取り出しサラに向けて開けて見せた。 『サラ、僕は君が好きなんだ。もうずっと前から。今まで勇気が無くて…タイミングが掴めなくて…言い出せなかった。』 ひと息ついて続ける。 『僕は半年後に卒業したら少し遠い街の学校の先生になる。君と離れたくない。これから付き合って結婚して一緒に行ってくれないか?』 サラは大粒の涙を流しながら大きく頷いた。 『アンディ、嬉しいわ。私も子どもの頃からあなたが大好き。だけど最近あなたの傍にはイザベラがいることが多くて…。イザベラは私の大切な友達でもあるから…諦めていたの。』 アンディはサラの左の薬指に指輪を嵌めて、2人は手を繋いで笑い合った。 そして彼はあらためてイザベラを見やった。2人の様子をずっと見ていた彼女も凄い形相で睨み返した。 『イザベラ、昨日急に教授に呼ばれて急いでいたところを君が強引に手紙を奪うようにして引き受けてくれたこと…後悔してる。大事なものは自分で渡すべきだった。』 『サラより私の方があなたに相応しいわ!』 『それは僕が決めることだ。それに君は僕の事が好きと言うより、サラを貶めたいんだろう?』 そう言われたイザベラは今度はサラを睨みつけ、早足で歩いてその場を離れた。 その後、動物園の方へ回ったイザベラはアルパカに唾を飛ばされ、その強烈なニオイは洗っても洗っても取れなかった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 『ザギル、良い働きでした。絶妙なタイミングにサラを届けられましたね。』  『当たり前さ。かかか。あたしを誰だと思ってるんだい!』 ザギルはキャリーナの肩に止まり得意気に鼻を膨らませた。 『アンディがズバッと言ってくれてスカッとしたねぇ。しかしイザベラも可哀想に。あの動物園のアルパカの唾のニオイは一生落ちないぜ。』 『自業自得です。本当に彼を愛しているわけではなく、女性同士特有の妬みや意地悪心に負けた自分が悪いのです。心を入れ替えて誠実に生きていったら、アルパカのニオイなど気にしない方と巡り合って幸せになれるでしょう。』 『そんなもんかね?』とザギルは羽をすくめた。 『ところで何で誰もサラが突然現れたことを不思議に思わないんだ?あいつらみんなアホだよな。』 『ザギル、アホだなんて言ってはいけないわ。すべてが運命に思える。それが恋の魔法というものです。』 そしてキャリーナはまたザギルを目の方へ来るように言い覗き込ませながら『まだまだ助けが必要な人々がいますよ。』と言った。 ザギルは『あいよ!』と意気揚々と返事をした。
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