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11、またトラブル?その1
◇◆◇
辰巳のせいでとんでもない体験をしたが、犬があっさり離れてくれたので良かった。
じゃないとまた仕事を休まなきゃならなくなるし、俺も身内のふりをして電話をするのはなんか嫌だ。
辰巳はと言うと、あれ以来すっかり普通に戻った。
チンパン辰巳も面白かったが、犬のままじゃまともに生活できない。
それに、あの犬だって無事あの世に行けたし、その方がいいに決まってる。
「なあ辰巳、犬だった時ってどんな感じだった?」
俺はちょっと気になって聞いてみた。
「うーん、なんて言うか……、どこか遠くの方に自分がいるような感じで、体を犬に乗っ取られてる……みたいな」
「へえ、そうなんだ、じゃあ、全部わけわかんなくなるわけじゃないんだな」
だから運転できたりしたのか。
「そうだな、俺はつい好奇心であのタンスの引き出しを開けた、そしたら家族の写真や犬のおもちゃが入ってた、写真にはゴールデンレトリバーみたいな大きな犬が写ってて、すごく嬉しそうな顔をしてた、その写真をじっと見ていたら……いきなり体がゾクッとしたんだ、たとえるなら氷の剣に背中を刺されたような感じ、で、『うっ!』っとなった後で犬に乗っ取られた」
憑依されるってそんな感じなんだ……怖っ。
にしても、悪霊じゃなくて良かった。
「嫌だな~、俺、そんなのぜってぇ嫌だ、辰巳、もう心霊スポットには行かねぇからな」
実際に霊を見たわけじゃないし、そういう物が存在するか、ハッキリとはわからない。
けれど、この世には化学では解明できない事がある。
信じる信じないじゃなく、君子危うきに近寄らずだ。
「ああ、俺も懲りたよ、だけどさ、シン、感じてたな」
「え……」
犬化してエッチした時もわかってたのか?
「犬ってさ、やたらやりたくなるみたいで、俺には制御できなかった」
「そりゃ動物だからじゃね? 別に感じてたわけじゃねぇし」
犬にヤラれて感じたとか、認めたくない。
「シンさ、もしかしたら獣姦いけるんじゃね?」
なのに、辰巳はニヤニヤしながら馬鹿な事を言ってくる。
「あのな、そんな事したら病気になるわ、つか、お断りだ」
ガチで動物とヤルとか、なんかそういう話を海外のニュースで聞いた事があるが……。
そいつは自ら馬に掘られて死んだらしい。
もうアホとしか言いようがないし、そいつの身内は赤っ恥どころじゃないだろう。
「あははっ、冗談だよ、擬似的に体験できたんだからいんじゃね?」
辰巳は笑っているが、本当に反省したんだろうか。
「どのみち辰巳なんだし、それはいいよ、もう取り憑かれるのはごめんだからな」
「ああ、わかってる」
心霊スポットなんか2度と行きたくない。
…………
それからはまた平凡な毎日が戻ってきた。
俺はファミレスでバイト、辰巳はお役人。
ファミレスのバイトは、躾のなってないガキが店内を走り回ってウザイが、とにかく忙しい。
人手不足もあって、あれもこれも全部やらされる。
ただ、俺の場合は肉体労働だ。
辰巳の方が遥かに大変そうに見える。
今は不正受給者の対応に追われているらしく、不正受給者の家に行かなきゃならないらしい。
こないだのストーカーの件は解決したが、生活保護課には安息の日々はやって来ないようだ。
辰巳がケースワーカーの資格を取ったりするから、余計に受給者と直接関わらなきゃならなくなるわけで……。
俺は余計な資格なんか取らなきゃよかったのに……と言ったが、辰巳はその資格がないと単に窓口業務だけで終わってしまい、本当に保護費が必要な人に救いの手を伸ばせなくなると、そんな風に語った。
顔立ちはクールで怖い系なのに、心の中は慈悲や慈愛で満ち溢れている。
まあ~だから惚れたってのはあるんだが、ちょっと親切にし過ぎるところがある。
今関わってる不正受給者にもまた同情しなきゃいいんだが……。
俺の心配をよそに、辰巳は今夜も求めてくる。
俺はベッドの上で噛まれながらイキ果てる。
噛まれながらイクのを繰り返すうちに、なんだか……噛まれなきゃ物足りなくなった気がする。
俺は辰巳のせいで超ドMになりそうだ。
…………………………
「あー、疲れた、ったく、ガキうぜーんだよ、ちゃんと躾しろ」
今日も店内を走り回るガキ共にうんざりな1日だった。
玄関に入って何気なくキッチンを見たら、辰巳がいない。
いつもなら、エプロン姿で料理を作ってる筈だ。
辰巳はジムに通ってるが、今夜は行くとは言ってなかったし……。
なにも言わずに定時に帰宅してないとか、こんな事は滅多にない。
俺はいやーな予感がした。
また受給者と揉めたりしてるんじゃ?
すぐに辰巳に連絡してみたが、マナーモードにしてるらしく、まったく繋がらない。
どこに行ってるのかさっぱりわからないので、とりあえずカップ麺を食う事にして先にシャワーを浴びた。
風呂に入ってカップ麺も食べ終わり、何気なく時計を見たら22時になっていた。
辰巳は真面目だから、飲みに行くとしたら職場の付き合い位だが、だとしても行く時には前もって言うし、個人的に飲みに行くとか、そういうのはまずない。
段々心配になってきた。
どこかで事故にでもあったんじゃ? と思ったが、それなら同居人の俺に連絡がある筈だ。
俺達は、万一の時には互いに連絡するようにしようって決めている。
2人で住んでても表向きはシェアだから、救急隊員に変な風に思われる事はないだろう。
兎に角、なかなか帰って来ないし、俺は心配で堪らなかった。
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