2、俺は病人だから

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2、俺は病人だから

◇◆◇ やべぇ、なんかフラフラする。 バイト無理かも。 咳とかはないし、喉も痛くないのに、熱っぽくて体がだるい。 というか、関節だけがやけに痛い。 これはあれか? インフルだったりするのか? 辰己は出勤した後だし、俺はよろつきながら棚の引き出しを探り、体温計を探し出した。 「あった……」 それを持ってベッドに戻ったら、バタッと倒れ込んで早速熱を測った。 ぴぴぴっと音が鳴って計測完了。 わきから引っ張り出して体温を確認した。 「39.2度……」 死んだ……。 どおりで動けないわけだ。 これって病院へ行った方がいいんだろうけど、近くに病院なんかないし、俺は原付しか持ってない。 まぁ車があったとしても、この状態で運転するのはどのみち危ないだろう。 タクシーを呼ぶしかないか。 ひとまずパジャマを着替えなきゃ。 けど、ほんとマジキツイ。 クローゼットまで行くだけで倒れそうだ。 這いつくばって行った。 「ハァハァ、辰己~、ヘルプミ~」 辰己は車を持ってるので居たら送迎を頼めるのに。 とか言っても、仕事なんだから仕方がない。 なんとか用意を済ませ、携帯でバイト先に連絡を入れて簡単に事情を話し、無事休む事になった後でタクシーを呼んだ。 …………… 1番近い病院で診察して貰ったら、やっぱりインフルエンザだった。 一応解熱剤を貰ったが、すぐには効かないかもって言われた。 しかも、安全性の高い座薬がいいとの事で座薬を処方されたが、とにかく水分をしっかりとって、夜寝る前に座薬を使うようにという事だ。 病院が混んでいたのと、点滴をして貰ったので結構時間を食ったから、帰宅したらとっくに昼を過ぎて夕方前になっていた。 確か今日は……辰巳はジムの日じゃない。 そろそろ帰ってくるかな。 俺はとりあえず冷蔵庫から飲み物を出して飲んだ。 飲んで、ベッドに倒れ込んで寝るしかない。 熱のせいで頭が朦朧となるし、眠くないのに勝手に目が閉じてしまう。 うつらうつらしているうちに、辰己が帰ってきた。 壁掛け時計を見たら、18時過ぎ。 ほぼいつもと同じ時間だ。 辰己は部屋にあがると、持っていた買い物袋を台所のテーブルに置いたが、何気なくこっちを見た。 「んん? シン、どうしたんだ?」 部屋は2LDKで上がってすぐの玄関付近に台所があり、すぐ横に廊下があってその先に風呂やトイレがある。 部屋は玄関からまっすぐに2部屋がくっついたような感じになっていて、一応部屋の仕切りに木の引き戸がついているが、常時開けっ放しにしてるので、部屋の奥にあるベッドは丸見えだ。 辰己は俺の異変に気づいてそばにやって来た。 「どうした? 何があったんだ、風邪……熱か?」 心配そうに顔を覗き込んできて、おでことおでこをくっつけようとする。 「あ、あんまり近づかない方がいいよ、インフルだから」 俺は反射的に身を引いて言った。 「えっ、マジで? 病院行ったの?」 辰己はびっくりした顔をして聞き返してくる。 「うん」 「タクシー?」 「そう」 「昨日はなんともなかったのに、いきなりインフル?」 「らしい、インフルって普通の風邪みたいに鼻水や喉の痛みとかなくて、いきなり高熱が出るらしい、あと関節がやたらいてぇ」 確かに、辰己が言うように昨日は普通だった。 それが、今朝起きたらいきなり体が鉛のように重いんだから、俺自身わけわかんねし、頭クラクラになって朝っぱらから混乱した。 「そうだったんだ、電話してくれりゃ早退したのに」 辰己は簡単に言うが……。 「いや、それは無理だろ、普通の夫婦で共働きなら、小さな子供がいたりするとそういう理由で早退できるかもしんねぇけど、俺らみたいな秘密のカップルじゃ、早退する理由がねーじゃん」 どこを探しても早退する理由は見つからないし、公務員なんだから嘘をついてまで早退するのはよくない。 「うーん……、それもそうか」 「とにかくさ、悪いけど、飲み物と何か食いもんを持ってきてくれたらそれでいいから、頼める?」 今はひたすら寝て、早く治るのを願うしかなさそうだ。 悪いけど、辰己に助太刀をお願いした。 「ああ、当たり前だろ」 辰己は当然のようにOKしてくれたので助かった。 こういう時、もし一人暮らしだったらかなり厳しいだろう。 パートナーとして辰己がいてくれる事に感謝だ。 「あとはマスクして離れてた方がいい、うつるからな」 但し、感染予防はした方がいい。 「そんなの気にするな、とにかく、お粥でも作るから」 辰己は一言いって踵を返し、台所に戻って行った。 スーツを着てるから、何気ない仕草がカッコよく見える。 辰己は上着を脱いで台所の椅子にかけると、腕まくりをして早速料理にとりかかった。 もう同棲して半年近くが経つし、見慣れた後ろ姿なのに、俺は辰己を見ているだけで、こんなに頭がぼーっとなってる状態でもヤリたくなってくる。 俺の方から告白したし、やっぱ俺の方が好きな度合いは上回ってるかもな。 辰己は料理や洗濯、日頃からまめに家事をやる。 ズボラな俺は辰己に頼りっきりだ。 こんなんじゃいつか捨てられそうだし、今度何か手伝おう。 せっせとお粥を作る辰己を見ながら、そんな事を考えていた。 …………… それから俺は辰己の手厚い看護を受けた。 辰己は自分にうつるかもしれないのに、そんな事はかえりみずに看病してくれる。 ドラッグストアに行って熱を冷ますシートや補水液、食べやすいアイスにゼリー。 他にも沢山買ってきてくれた。 お粥もわざわざスプーンで食べさせてくれる。 さすがに恥ずかしかったけど、誰も見てないんだし、ありがたく食べさせて貰った。 「ほら、口開けて」 「あ、うん」 これもう……下手な嫁より優秀じゃね? って思ってキスしたくなったが、インフルがうつるから駄目だ。 「な、マスクくらいしたら? マジでうつったらやべぇし、高熱と関節痛、たまんねーよ?」 甲斐甲斐しくお世話してくれるお陰で熱は8度台まで下がってきたが、辰己はマスクをしようとしない。 「いいんだよ、で、薬は?」 俺の心配をよそにノーマスクで薬の事を言ってくる。 本人がいいと言ってるんだから……仕方がないか。 まだ22時だが、病人はそろそろ寝た方がいいだろう。 「俺、もう寝るけど、薬は寝る前にって言われてる、座薬なんだ」 「座薬?」 「うん、安全性が高いんだって」 「ふーん、子供みたいだな」 「俺さ、そろそろ薬入れて寝るから、辰己ももう俺の事はいいよ、風呂に入って寝てくれたらいいから」 もう看病は十分過ぎる位してくれたし、辰己は明日も仕事だ。 俺の事はほっといてくれて構わないのだが、何故か辰己はいたずらっぽくニヤリと笑った。 「ふっ、座薬……入れさせろ」 何なんだ? と思っていると薬の事を言う。 「えっ? いや、でも……ケツ洗ってねーし、いいよ、自分でやる」 今日はさすがにエロい事どころじゃなかったので、ケツを綺麗にしてない。 たとえパートナーでも、そんな事をして貰うのは抵抗がある。 「かまわん、薬は……そこか」 いいって言ってるのに、辰己は枕元を見て薬を発見すると、素早く薬の袋を奪い取った。 「あっ! ちょっと~」 「ふっふっふっ、さ、諦めてケツを出せ」 そんな悪魔の化身みたいな面で言われたら、困るじゃないか。 「え~、やだよ」 「ええい、つべこべ言わず、さっさと尻を晒すんだ」 辰己は掛け布団を引っ剥がし、俺の体を押して強引に後ろに向けた。 「わ、わあ、やめろ~」 熱は下がってきたとはいえ、まだシャキッと動けない。 俺は辰己に背中を向けて横向きに寝るしかなかった。 「ほらよっと、へへー」 辰己は楽しげにパジャマのズボンとパンツを一気に引き下げた。 「ああ、マジかよ~」 嫌だけど、力が入らないし、最早諦めるしかない。 「よしよし、病人はおとなしくしてろ、今入れてやるからな」 「はあ~……わかったよ」 ケツだけ晒した無様な姿でされるがままだ。 「じゃ、いくぞ」 辰己は尻たぶを開き、座薬をアナルに挿入してきた。 「あっ……」 嫌なのに、つい感じてしまう。 「ちゃんと入れないとな」 辰己は指をぐっと奥に入れ、薬を突っ込んできた。 「あぁ~、もういい、その位でいいから」 俺達はたまーにリバって交代する事もあるが、ヤル時はほぼ俺が受ける側だ。 ネコとして開発された体は、こんな時ですら感じてしまう。 「はあ、たまんね、座薬ってエロイな」 辰己はなかなか指を抜こうとせず、入り口付近をいじくって中を掻き回す。 「ああっ、やべぇ、やりたくなるだろ」 俺は堪らなくなってきた。 「ああ、そうだな、病人なんだし、あんまやったらやべぇな、薬が溶けて出てしまう」 辰己はこれ以上やったらマズいと思ったのか、指を引き抜いた。 「はぁー……」 ただでさえ力のない体から更に力が抜けた。 「兎に角……ありがとう、手ぇ洗ってきたら?」 「ああ」 座薬を強制挿入されたのは不本意ではあったが、ひとまず礼を言って促した。 辰己は下げたパジャマとズボンを元に戻して手を洗いに行った。 俺は辰己の後ろ姿を見ながら、ホッとする反面、余計な事をされたお陰で体がうずうずしていた。 それから後、辰己はやることを済ませていつもみたいにベッドに入ってきた。 ソファーがあるし、俺は別々に寝た方がいいと言ったんだが、辰己はやっぱり言う事を聞かず、俺は『じゃあせめて……』と思って、辰己に背中を向けて寝る事にした。 それなのに……辰己は背中から抱き締めてくる。 すげー嬉しかったけど、俺はインフルがうつる心配と、座薬で火をつけられた体の疼きに苛まれて寝る羽目になった。
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