4、馴れ初め

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4、馴れ初め

◇◆◇ 今はラブラブな俺達だが、最初は高校の部活で知り合った。 俺は初めから辰己を特別視していたわけじゃなく、ウマがあうって言うのかな、自然と会話を交わすうちに、いつの間にか仲良くなっていた。 俺達は普通の友達として付き合い、やがて俺は辰己の家に泊まりに行くようになった。 特別視し始めたのはその頃からだ。 俺は元々女の子には興味がなかったのだが、自分がゲイだとは認識してなかった。 ただ単に、人よりそこら辺の成長が遅れてるのかと思ってた。 だから、女の子とは友達感覚で話をしたり付き合ったりしていたが、それが恋愛に発展する事はなかった。 それよりも自然とかっこいい男子に目がいく。 かっこいいというのは、体を鍛えていたり、スポーツができたり、イケメンだったり、理由は様々だが、お気に入りを目で追っていたのは確かだ。 だけど、それがただの憧れなのか、恋愛感情があるのか、自分じゃわからなかった。 そんなある日、辰己の部屋にお泊まりとなり、じゃ風呂に入ろうかって事になった。 当時辰己は実家住まいだったが、辰己の家族は俺を歓迎してくれて、晩御飯までご馳走様になったりしていた。 なので、風呂も入らせて貰っていたのだが、この夜は先に辰己が風呂に入って部屋に戻ってきた。 それはいいが、いつもなら服を着てるのに、段々慣れてしまったのか、パンイチで帰還した。 俺達はサッカー部に入っていたが、怠け者の俺とは違って、辰己は基礎体力をつける運動を積極的にしたり、自宅でも腹筋や腕立て伏せをしていた。 部活でも半裸になる事はあるが、この夜俺は……いつもより強く辰己に目を惹かれた。 その時は何故なのかわからなかったが、今ならわかる。 俺は明らかに辰己の体を見て欲情していたのだ。 それが証拠に、股間が反応してテントを張ってしまい、俺は辰己にバレたらヤバいと思って焦った。 「シン、風呂に入ってきたら?」 「あ、ああ」 今立ち上がったら勃起してるのがバレる。 窓の方へ向いて外を見ながら返事をした。 「んん? なんでそっちに向いてるんだ」 辰己が不思議そうに聞いてきたが、なんでもないふりをして言った。 「なんでもねー、景色を見てるんだ」 「ふーん……、景色か……へっ、おりゃっ!」 そしたら、辰己はふざけるように襲いかかってきた。 「わ! ちょっとなにすんだよ!」 俺は咄嗟に手で股間を隠した。 「なに股間隠してんだ?」 そこは触れて欲しくないのに、辰己は嫌な事を聞いてくる。 「別にいいじゃねーか……」 頼むからほっといて欲しい。 「よくねぇ、見せろ!」 なのに……。 「わあ、やめろ~」 強制的に手を退けられてしまった。 「ん?……なんで勃ってんの?」 まぁ男同士だから、見られてもそんなに恥ずかしくはなかったが、なんで? って聞かれても……この時の俺は自分でもよくわからなかった。 「だから知らねーって……、見るなよ」 「ふーん、よくわかんねーけど、ま、生理現象だし、いっか」 辰己はたいして気にせずに流してくれた。 それが『俺は辰己の事を性的対象として見てるんだ』と気づく、最初の出来事だった。 そんな事があってから、俺は辰己の裸を見るだけで勃起するようになり、こんな事がバレたら辰己に嫌われると思って、ハラハラしながら毎日を過ごした。 男に欲情するなんて、自分でもびっくりだったが、俺は今まで女の子に興味がわかなかった事やイケメンを目で追ったりする事なんかを考え、自分はそっち側の人間なんだとわかった。 自分がゲイだと気づいてからは……悩んだ。 今はLGBTがどうだとか、差別をなくそうって言ってるし、オカマの芸能人も沢山いる。 でも彼らが人気を博してるのは、テレビに出てくるキャラクターとして愛されてるからで、観る側の人からすれば単に面白いから観てる人が大半だと思う。 本当の意味でそういった人達を理解してるとは到底思えない。 それでも芸能人ならまだしもだが、そこら辺の一般人でゲイとかバレたら、差別まではいかなくても変な目で見られたり、ノンケからは距離を置かれる可能性がある。 だから、この事は絶対誰にも言っちゃいけないって思った。 だけど、ゲイ云々は黙ってりゃわからないが、辰己に対しての思いは日に日に募るばかりだった。 俺はできる限り本心を隠していたが、高2になったある日、この日も辰己の家に泊まりに行っていた。 ちなみに、学校にはそのまま行けるように用意してある。 夕飯はトレイに乗せて辰己のお母さんが部屋に持ってきてくれるので、それを食べてダラダラ過ごす。 辰己は勉強をしていたが、俺は大体漫画を読んでいた。 そうやってそれぞれに好きな事をして過ごし、適当な時間に寝るのだが、今日に限って辰己は一緒にベッドで寝ようという。 そんな事をしたら俺は眠れなくなるじゃないか。 だけど、布団をクリーニングに出したんで、今夜はちょっと狭いけど我慢してくれという。 そういう事なら仕方がない。 シングルベッドに2人で寝る事になったが……。 これはかなりヤバい、大ピンチだ。 裸を見るだけでナニが反応するのに、くっついて寝るとか、最早拷問に等しい。 だけど、その時はやってきた。 俺は元からジャージだし、いつもそのまんま寝るのだが、辰己はよりによってティシャツにパンイチという刺激的な格好でベッドに入ってきた。 「ふう、じゃ、寝よっか」 「うん……」 俺はさりげなく辰己に背中を向けた。 でも狭いから背中が密着してしまう。 温もりがリアルに伝わってきて心臓がドキドキした。 もちろんナニも反応してしまい、ガチガチに勃っている。 こんなの、気づかれたら超ヤバい。 俺は体を丸めて意識を逸らそうと必死になった。 すると、突如後ろから辰己が抱きついてきて、耳元で低い声で囁く。 「な、また勃ってんのか?」 「なに言ってるんだよ」 背中がゾクリとしたが、平静を装って答えた。 「前にさ、そういう事……ほら、勃ってた事あったじゃん」 辰己はナイーブな部分にズケズケと踏み入ってくる。 「あれは……たまたま……」 あの時はさらっと流したのに、なんで今それを持ち出すのか意味がわからない。 「なあシン、お前、ひょっとしてそっちのけがあるのか?」 しかも、デリカシー無しで聞かれたくない事を追求してくる。 「違う、馬鹿な事言うな」 ちょっと腹が立ってキツく否定した。 「でもさ、学校でエロい話しても、シンは入ってこねぇじゃん、俺、そーゆーの差別しねぇから、正直に言ってくんね?」 けれど、一向にその話をやめようとしない。 「もういいだろ、俺は……、俺の事なんか気にするな」 俺は居た堪れない気持ちになってきた。 「そんな怒るなって、俺、ふざけて言ってるんじゃない、もしそうなら……俺は別に構わねーよ」 困り果てていると、さもなんでもない事のようにめちゃくちゃ気になる事を言った。 「えっ?……」 構わないって……俺が辰己の事を特別視してもOKって事なのか? 「な? もし俺で興奮するとかなら、打ち明けて欲しいな」 「ちょっ、やめろよ」 その時の俺は、不意に痛いところを突かれ、ものすごく動揺したのを覚えてる。 俺は自分でゲイだと認識していたが、それを丸ごと受け入れたわけじゃなく、俺自身それでいいのか? 俺は異常なんじゃないのか? って心のどこかで戸惑っていた。 まだ気持ちがものすごく不安定だったんだ。 だから、辰己に直球で指摘されて即座に否定した。 それなのに、辰己は俺を抱き締めて離さない。 俺は逃げ出そうとして藻掻いたが、辰己は無駄に鍛えてるから力が強い。 ジタバタするうちに、辰己は片手で俺のナニをぎゅっと掴んだ。 「やっぱ勃ってる」 「う、うるさいな、溜まってんだよ」 「なんでそんな怒るんだよ」 「それは……」 辰己は悪気もなくやってるのかもしれないが、俺はその時、辰己の事を本気で好きなんだと思った。 だから、そうやってチャラチャラ絡まれると腹が立つし、悲しくなる。 「な、もしも俺の事が好きなら言って欲しい」 俺が凹んでいると、辰己は信じられない事を口にする。 「はあ? お前……なんなんだよ」 こんな風に絡まれて、そんな大事な事を軽々と言えるわけがない。 「ビビんなくていいから、俺達友達、つーか……親友だろ?」 「そりゃそうだけど……」 だからこそ、俺は安易に口にできなかった。 辰己はさっきから、さもゲイを理解しているかのように言ってるが、マジのガチで俺が辰己を見て勃起したりしてるって知ったら……それでも今まで通り友達として付き合ってくれるのか? 自分を性的対象として見てる男を許容できるっていうのか? 俺は辰己を失いたくない。 「もう違うって言ってるだろ! 俺そんなんじゃねーから!」 失うのが怖いから、つい怒鳴ってしまった。 「あ、っと……、変な事聞いて……しつこいよな、ごめん」 辰己は一言謝ると俺をそっと離し、俺に背中を向けて布団に潜り込んだ。 俺は『違う……そうじゃないんだ』本当は好きで好きで堪らない。 思わず抱きしめたくなったけど、そんな勇気があったら端からやってる。 感情が昂って泣きそうだった。 けれど、結局その夜はそのまま眠れない夜を過ごした。 そんな出来事があった翌朝、俺はさすがに気まずくなって辰己から目を逸らしていたが、辰己は何もなかったかのように普通に話しかけてくる。 それなら……俺も変に拘るのはおかしいと思って、普通に言葉を返した。 以降、俺達の関係に特に変化はなく、前と同じように友達として付き合い、友達としてふざけあった。 ただ俺は……表には出さなかったが、辰己が『好きなら言ってくれ』とか、あんな事を言った事がずっと心に残っていた。 だけど、やっぱ告白する勇気なんかない。 俺はモヤモヤする気持ちを抱えながら、極力普通に振る舞った。 この日も部活が終わって一緒に帰ろうって事になり、辰己が先に立って自転車置き場に向かって歩いていた。 ちょうど体育館の横を通り抜ける時、俺がよそ見した拍子に辰己がいきなり足を止めた。 「……ぶっ!」 ゴチン! と辰己の背中で顔面強打……。 マジで鼻が折れたかと思った。 「シン……」 鼻が痛くて涙目になってるのに、辰己は体育館の壁に俺を押し付けて壁ドンしてきた。 「ちょっ、鼻潰れただろ、いてぇし……なにやってんだよ」 鼻が痛すぎて壁ドンされてる事なんか吹っ飛んだ。 「な、前に泊まった時に聞いた事、ハッキリ言ってくれ、俺はあれからずっとモヤモヤしてるんだ」 何を言うかと思や、突拍子もなくあの夜の事を蒸し返す。 なんで辰己がモヤモヤしてるのかわからない。 「はあ? 今それを言う? モヤモヤってどうしてなんだよ」 俺がモヤモヤするのはわかるが、ノンケの辰己がモヤモヤする事はないだろう。 「わからない、自分でもわからないんだが……俺はお前の気持ちを知りたい」 辰己はどうしても俺の気持ちを知りたいようだが……。 「ちょい待って、それを聞いて辰己がスッキリするわけ?」 「うん、多分……」 「多分って……」 俺が辰己に惚れてるとバラして、辰己がスッキリする。 スッキリしたとして、じゃあ……そっから先どうなるんだ? やっぱキモくなって距離を置くんじゃないのか? 「な、頼む、俺の事をどう思ってるか、言ってくれ、俺はそれを聞いても驚いたりしねぇ、な、頼む」 俺が苦悩してるっていうのに、辰己はキスする勢いで顔を近づけて迫ってくる。 「ち、ちけぇって……」 やべぇ、こんな所を誰かに見られるのもマズイが、ナニが反応して勃ってきやがった。 「シン、ハッキリ言え」 「そんな無茶な……」 そもそも告白する勇気なんかある筈がないのに、辰己はこんな唐突に……こんな場所で……、精悍な顔をしてグイグイ迫ってくる。 でも俺は……なけなしの勇気を振り絞って、好きだなんて言えるわけがない。 困惑しまくって冷や汗ダラダラになっていると、遠くの方からガヤガヤ話し声が聞こえてきた。 マズい、マジで誰かこっちに歩いて来る。 「辰己、誰かきた、退けよ」 早く退いてくれなきゃ、こんなシーンを見られたりしたら、学校中の噂になって笑いものにされてしまう。 「言わなきゃ退かないからな」 「ええっ、マジかよ……」 数人が談笑する声がどんどん近づいてくる。 俺は辰己を退かそうとしたが、辰己は壁ドンしたまま岩のように動かない。 「シン、言ってくれ」 「つ……」 話し声は確実にこっちへやってくる。 おそらく俺達と同じで、自転車置き場を目指してるんだろう。 こんな事で学校中の笑いものになるのは絶対ごめんだ。 そこまでして迫るなら……後は野となれ山となれ……。 勇気を最大限に掻き集めて告白する事にした。 「わかったよ、じゃあ言うからな……、好きだ、俺は辰己の事が好きだ」 目を閉じてヤケクソで口走った。 ムードのカケラもない告白だし、顔が熱くなって逃げ出したい心境だったが、その時、ふわりと柔らかな物が唇に触れて直ぐに離れた。 「やっぱそっか、シン、俺もだ」 辰己は壁ドンをやめたが、離れる拍子に俺にキスしたらしい。 俺は顔が熱々になったが、その上、予想外な事を口にした。 「え、あ、辰己も? え、えぇ……」 俺はパニクった。 あんなに悩んで悩みまくって……嫌われたらどうしようって思ってたのに、実は自分も好きだと言われてキスまでされた。 そんなハチャメチャな展開、すぐに理解できるわけがなかった。 「兎に角、行こう」 「うん……」 ひとまず小休止だ。 誰かに見られる前に、さっさと学校を出る事にした。 走って自転車置き場に行き、ソッコーで自転車に乗って門を出たら、幸いな事に同じ方角へ帰る奴らは誰もいなかった。 俺も辰己も自転車からおりて、自転車を押しながら横に並んで歩いた。 「で、さっきの話だけど、シンの気持ちはわかった、俺、シンが泊まりに来て、勃ってんのに気づいたあの夜から……やたらシンの事が気になってたんだ、でもシンはあれ以来そ知らぬ顔をしてる、俺……なんか欲求不満みたいになってきた、それでこの気持ちはなんなのか真面目に考えてみたんだ、世間ではゲイって呼ばれる人達がいる、俺は女の子をオカズにするからゲイじゃないかもしれないけど、シン、お前にも変な気持ちになるようになった」 辰己は自分の気持ちを包み隠さずに話したが、これは……まさかの両思い? 喜んでいいのか? 「じゃあさ、ちょい言い難いけど……、辰己も俺で勃ったりするって事?」 今まで苦悩してきただけに拍子抜けする気分だったが、念の為確認したい。 「ああ、うん、シンをオカズにして抜ける」 「オカズ……」 俺は辰己より先に辰己をオカズにしてるんだが、自分がオカズにされてると言われたら……微妙な気持ちになった。 「なあ、俺達……同じ気持ちじゃん」 「うん……」 けど、オカズ云々は置いといて……辰己が言うように、俺達が同じ気持ちだった事は奇跡と言ってもいい。 こんなハッピーな展開は滅多にないだろう。 「だったら、これからはちゃんと付き合わね?」 「あ、そっか……、そういう事になるんだな」 俺は辰己の事が好きだけど、だからどうしたいとか、そんな事は具体的に考えた事がなかった。 ひたすら隠し、ひたすら戸惑ってるだけだったが、辰己はちゃんと考えている。 「シンも初心者だろ?」 「うん」 「何をどうするかなんてわからないけど、初心者同士、付き合ってみねぇ?」 「そうだな、俺、確かに辰己の事は好きだけど、未だに自分でもよくわかんねーんだ、だからさ、上手くやれるかそれもわかんねー、でも付き合いたい」 俺はわかんねー事だらけだし、辰己とは男同士だけど、これからは特別な存在として付き合いたいって、真剣にそう思った。 「うん、じゃ、そうしよ、シン、改めてよろしく」 辰己は笑顔で片手を差し出してくる。 「ああ、うん、こちらこそよろしく」 俺も手を差し出し、俺達は軽く握手をして大切な約束を交わした。 こうして俺と辰己は付き合う事になったのだが、もちろん周りには内緒にしていた。 そこから今みたいな関係に至るまで、互いにおっかなびっくりな事の連続だった。 俺達はすぐにセックスしたわけじゃなく、セックスしたのは社会人になってからだ。 大学は別々の学校だったので、浮気だなんだと揉めたりした事もあったが、結局はただの誤解だったとわかった。 大体、俺達は互いに初心者マークだ。 学生時代は恐る恐るちょっとずつ関係を深めて行き、大学を卒業したら仕事をしなきゃならなくなったが、気分的には随分楽になった気がした。 学内では常に周りの目があるし、バレないようにするのが大変だったからだ。 社会人になって、俺達はようやく自由を得た。 そうして、晴れて体を交える事となったのだ。
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