8、とんでもない事

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8、とんでもない事

◇◆◇ 山の際に車を止めて、山へ上がって道なき道を歩いて行く。 俺は場所を知らないし、辰巳の後ろについて行った。 獣道かな? ギリ道みたいになっているので草を踏みながら歩く。 10分位歩いた時に鳥居が見えてきた。 「うわ……きた、つーかやっぱ朽ちてる」 鳥居は石造りのやつだが、苔が生えてて石もところどころ欠けている。 はやくもやべぇ雰囲気たっぷりだ。 俺は鳥居をくぐるのを躊躇してしまい、足をとめて立ちすくんでいたが、辰巳はさっさと鳥居をくぐってしまった。 「シン、早く来いよ」 辰巳が鳥居の向こう側から急かしてくる。 「わかった……」 仕方がない。 俺も鳥居をくぐって元神社の敷地に入った。 サクッサクッと枯葉を踏む音がするだけで、周りは木々に囲まれている。 別になんて事はない。 「行こっか」 「うん」 俺はちょっと安心して辰巳と共に奥へ進んで行った。 足元は元々は石畳の道だったのか、それらしき石が土に埋まって途切れ途切れにある。 それを辿って行くとやがて神社らしき建物が見えてきた。 誰も管理する者がいないのか、屋根もボロボロで穴があいているし、壁や柱も表面が剥がれ落ちて腐ったようになっている。 そんなに大きな神社ではないが、神社から少し離れた場所、神社の横にあたるところに住宅らしき建物がある。 和風建築なので一見神社の一部かと思ったが、よく見ると人が住んでいた……と思える住宅だった。 漆喰の塀が崩れて庭の中が丸見えだ。 草ボーボーになった庭に枯れた池、縁側があって掃き出し窓がある。 この家もかなり荒れていて、近づきがたいオーラを発している。 俺は2つの建物を少し離れた所から見ていたが、辰巳が住居だったと思われる建物の方へ歩いて行った。 「辰巳、ちょっと~大丈夫か?」 廃神社が目的なのに、元住居の方へ先に行くのはどうかと思った。 もう神様はいないとは思うが、一応先に挨拶した方がいいんじゃないか? 「なあ、そっちじゃなくて神社だろ? 神社に先に行って形だけでもお参りしたら?」 確か拝殿っていうのかな? ボロボロだけど賽銭箱が置いてある。 俺は気持ちだけでもお参りしようと思った。 辰巳は家の探索に夢中になってて俺を無視して家の中を覗き込んでいる。 俺はひとりで拝殿の方へ行った。 ズボンの後ろポケットから財布を出して小銭を数枚出す。 で、お賽銭を賽銭箱に入れて二礼二拍手一礼する。 それから拝殿の周りを歩いてみた。 そしたら、拝殿の後ろにもうひとつ建物があった。 多分こっちが本殿だろう。 神主のいなくなった神社は、大抵誰かが代わりに管理する場合が多いが、ここは運悪く管理者がいなかったに違いない。 ほったらかしにされてるのが丸わかりだ。 俺はあんまり立ち入りたくないので、外側から見るだけにして、写真も撮らなかった。 拝殿の方へ戻って辰巳を見たら、掃き出し窓が開いている。 どうやら家の中に入ってしまったらしい。 朽ちた家屋の中に入るのは危ないし、心配になって家の方へ行ってみた。 庭に入って草を掻き分けながら進み、開いた掃き出し窓から中を覗いてみる。 「辰巳~、おい、なにしてんだ?」 居間……だったんだろうか、家具なんかもそのまま残っている。 懐かしいブラウン管のテレビが置いてあり、座卓の上には急須、湯のみ、灰皿が置いてある。 部屋は結構広く、隅の方にはタンスやサイドボード。 壁にかけられたカレンダーは、何十年も前に時が止まったままだ。 なんだろう……この違和感は。 まるでそこに居た人達が、一瞬で消えて居なくなってしまったような、そんな感覚に陥る。 居間の向こう側には木枠のガラス戸があって、廊下がある。 ガラス戸が開いてるから、辰巳は廊下伝いに奥へ行ってしまったんだろう。 全く姿が見えない。 この家は平屋だが、ざっと見てもかなり広い事がわかる。 そのせいで聞こえないのか? いくら辰巳を呼んでも返事が返ってこない。 「も~めんどくせぇな」 廃屋なんかに入りたくないが、辰巳が気になるから仕方がなく家に上がった。 雨漏りで畳が腐ってて床もヤバい感じだ。 足元に気をつけながら廊下へ歩いて行ったら、思った通りずっと奥まで廊下が続いていた。 廊下もヤバい感じだが、ゆっくりと踏みしめながら進んで行くと、やがて曲がり角の手前に部屋が現れた。 もしかしてこの中か? と思って中を覗いた。 襖や障子は壊れて倒れているので、開けっ放しになっている。 すると……辰巳がいた。 辰巳はカビだらけの座敷の中で、タンスの引き出しを開けている。 「ちょっと~、勝手に行くなよ、つか、なにやってんだ」 空き巣じゃねぇんだから、いくら空き家でも人様のタンスなんか探るのは駄目だろう。 「……………。」 だが、辰巳はなんにも返事を返さずに、ひたすらゴソゴソ手を動かしている。 なに夢中になってんだよ、アホかよってムカついた。 中に入って辰巳のそばに歩いて行った。 ……と、辰巳はいきなり俺の方へ振り向いたが、何かを口に咥えている。 引き出しの中にあったせいで汚れてはないが、そんなわけの分かんねぇ物を咥えたりしたらばっちいだろ。 「何やってんだよ、やめろよ、汚ねーし、変なもん咥えんな」 俺は辰巳の意味わかんねぇ行動に呆れて言った。 「うー……」 けど、なんだか様子がおかしい。 唸り声を出して答え、咥えた物を離そうとしない。 とにかく、病気になったらやべぇし、無理矢理とろうとした。 「馬鹿、口から離せ」 「うー、ワン!」 強引に引っ張ったらなんとか取れたが、不満げに文句を言ってくる。 ……が、ちょい待て……咥えてたのは骨型の犬のおもちゃだし……。 「はあ?」 唸った上に、今確かに『ワン』と言った。 「ワン、ワン、ワン!」 唖然としていると、今度は俺に抱きついて吠えまくる。 「えっ、えぇ……、おい、なにふざけてんだよ」 冗談にしても全然面白くねー。 「うー、ワン」 辰巳は普通に立ってはいるが、うーとワンしか話さない。 「はあ?……犬?」 どう考えても犬だが、俺は何が起きたのかわからず、頭が混乱した。 「はっ、はっ、はっ、ワン!」 辰巳はそんな俺をギュッと抱き締めて頬ずりしてきたが、犬みたいな息遣いをしてはしゃぎ、嬉しげにワンと吠える。 「ちょっ……、なにこれ?」 俺はふと、ここが心霊スポットだという事を思い出した。 まさか……まさか……まさかとは思うが、取り憑かれたとか? つっても、犬ぅ~!!! 「マジかよ……、辰巳、正気になれ」 俺は悪霊とかそういう類を警戒していたが、予想を遥かに飛び越えて動物霊が取り憑いたのか? そんなスットコドッコイな話は信じたくないが、もしガチだとしたら……取り憑いたのはここで飼われていた犬だろう。 「はっ、はっ、クーン、クーン」 辰巳はハアハア言いながら甘えたように鼻を鳴らし、俺の顔をぺろぺろ舐めてきた。 「あ……、これ……まじもんだわ、つか、舐めんな」 顔が唾だらけになってしまう。 てゆーか、これは大問題だぞ。 「運転……無理だよな?」 犬に運転ができるのか? 「ワン!」 辰巳は自信ありげに力強く吠えた。 「ワンじゃねぇし……、おい犬、体は人間なんだから運転しろ、そしたらな、新しいおもちゃを買ってやる」 俺はペーパードライバーだから、出来れば運転したくない。 取り憑かれても体は辰巳なんだから、いけるかもしんねー。 おもちゃで釣ってみた。 「ワン、ワン!」 辰巳はすげー喜んで返事をする。 「大丈夫かな~」 心配だが、一応やらせてみることにして、無理なら俺が代わるしかない。 俺は犬になった辰巳を連れて、この心霊スポットを立ち去ることにした。
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