1、何気ない日常

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1、何気ない日常

◇◆◇ 辰己は一見怖いオニーサンに見えるが、意外と口は小さく、舌が短くて可愛い。 一線を超えてから、俺は辰己の事を余計に好きになってしまった。 俺達は既に同棲しているが、たまには銭湯もいいかな~って話になって、近くの銭湯に行く事にした。 俺達が住むアパートと俺の実家は比較的近い場所にある。 ただ、同棲している事は言ってない。 もしバレても、『友達とルームシェアしてるんだ』と言って嘘をつけば、変に疑われる事はまずないだろう。 その銭湯には、子供の頃母に連れられてよく行ったが、社会人になった今はわざわざ行く事もなくなったし、今はスーパー銭湯の時代だ。 小さな町の銭湯に行くのは、ものすごく久しぶりになる。 互いに仕事が終わり、帰宅してから行く事になった。 仕事は……辰己は公務員でお役所勤めをしているが、俺はフリーターでファミレスでバイトだ。 だから、辰己の方が帰宅時間が早い。 俺はシフト制で帰宅時間はバラバラになる。 それもあって、夕飯などの料理はほぼ辰己が担当している。 10分位歩いて目的の銭湯『みろく湯』に到着した。 必要な物は……タオルは洗うやつとバスタオル、どっちもレンタルするが、小さい方のタオルは2枚位借りた方が便利だ。 シャンプーやボディソープなどは、使い切りの小さな物を購入するようになっている。 洗面器は浴場の中に置いてあるのでそれを使う。 ここの利用料金は500円、今どきワンコインでやってる店は少ないし、利用する側は助かるけど、潰れるんじゃないか? って心配になる。 俺達は番台で必要な物を買って金を払い、注文した物を受け取ってロッカーの鍵を貰った。 そしたら、入口でスリッパに履き替える。 靴を下駄箱に入れてスリッパで床に上がると、入ってすぐの場所は、ホテルで言えばロビーみたいになっていて、テーブルに椅子、自販機、ソファーにマッサージ機、ランニングマシーン、テレビ……などが置いてあり、まったりとくつろげるようなスペースになっている。 湯からあがったオッサンが数人、椅子やソファーに座って、ジュースを飲みながらテレビを観ていた。 「行こっか」 「ああ」 辰己に促され、くつろぎスペースを横目で見ながらロッカーを目指して歩く。 ロッカーに着いたら、辰己とは隣同士のロッカーだし、そこに財布などの貴重品を入れて互いに服を脱いでいった。 俺はあんまオシャレに興味がねぇから、普段着は大抵ジャージだ。 あっという間に全部脱いだが、辰己はちゃんとシャツにズボン、ジャケットを着ている。 脱ぐのに時間がかかるので、俺は腰にタオルを巻いて辰己を見ていた。 辰己は週2回ジムに通っている為、背の高い細マッチョだ。 細身な体に浮き出る筋肉がなんとも言えずエロいが、俺は何故か辰己の刈り上げた項を見ると、思わずむしゃぶりつきたくなる。 「お前な、またいかがわしい事を考えてるだろ、こんなとこで……、やべぇだろ、通報されるぞ」 裸になる辰己をじっと見ていたら、辰己は呆れた顔で俺の股間を見て言った。 「へへっ、だな……」 股間がテントを張っている。 さりげなく辺りを見回したら、幸いにも誰もいなかったし、辰己も腰タオル姿になったので、さっさと浴場に行く事にした。 「ま、とにかく行こ」 「ああ」 行くように言ったのは俺だが、ガラガラっとサッシの扉を開けたのは辰己の方だ。 俺はナニが落ち着くまで目立たないようにしなきゃマズいから、辰己の後ろに隠れていた。 浴場は左側に洗い場、右側に広い浴槽、タイルの壁には昔と同じで、未だに富士山の絵が描かれていた。 ラッキーな事に浴場には誰もいなかったので、俺はホッとして洗い場へ向かった。 隅に置かれた洗面器を取る頃には、ナニもおとなしくなってきて、安心して持ってきたタオルやボディソープ、シャンプーを洗い場のちょっと高くなった場所に置いた。 洗い場には木製の洗い椅子が置いてあるのでそれに座ったら、辰己も俺の隣で同じように手にした物を置いて座り、カランを捻ってシャワーの湯を出した。 俺も真似して直ぐに湯を出したが、やっぱり自然と辰己の体を見てしまう。 辰己はタオルを濡らしてボディソープの封を切り、軽く絞ったタオルの上に垂らす。 それをさっと泡立てて脇腹から洗っていったが、ジムで鍛えた引き締まった肉体は、どうしてもそそられるものがある。 俺はつい手を出して辰己の腕を撫でた。 「おいシン、駄目だって……」 辰己は手を止めて言ったが、今の所誰も入ってこないし、ちょっと位構わないだろう。 「だってさ、辰己がエロいから悪いんだ」 せっかくおとなしくなった股間がまた起き上がってきた。 「だからさ、家でやればいいだろ? こういう場所でやって誰かに見られたら、出禁になるぞ」 辰己は顔だけ見たらマジで怖い系に見えるが、公務員なだけに実際は生真面目な性格をしている。 「うーん……」 俺は誰もいない事をいい事に、辰己ともっとイチャイチャしたかったが……確かに辰己の言う事は正しい。 たまにこういった場所で盛る奴がいて、我慢できずにノンケの前でおっぱじめる。 ノンケにしてみればおぞましい光景でしかないから、当然銭湯に苦情を入れる。 だけど、それだけじゃなく、中にはシャワ浣をして汚物を垂れ流す奴もいるから最悪だ。 そういう事をやらかすと、店側としては迷惑極まりないわけで、『ゲイお断り、いかがわしい行為等を発見次第、警察に通報します』とか、厳しい措置をとる事になる。 俺は『あの店、ゲイは出禁になったらしいぞ、ゲイってどこでもヤルのか? 怖いな』とか、ノンケの仕事仲間からそういった噂を何度か耳にした事があるので、それを思い出して今は我慢する事にした。 真面目に体と頭を洗い、辰己と一緒に湯に浸かった。 だーれもいないだだっ広い浴槽は、まるで貸し切り状態だ。 洗う為に使ったタオルはきれいに濯いでかたく絞ってある。 それを小さく折り畳んで頭の上に乗っけた。 「今どきそんな事する奴いるのか?」 辰己が隣でニヤニヤしながら言ってきた。 「へへーん、ここにいるじゃん」 「ははっ、だな、あー、それにしても気持ちいい、やっぱ広いっていいな」 本当にその通りだ……たまたまなのか、それともこんな古い銭湯は流行らないのか、2人きりで湯に浸かってるだけですげー気分がいい。 調子に乗って大きく息を吸い込んだら、湯気でむせて咳き込んだ。 「うっ……、湯気がきた」 「あははっ、なにやってんだよ、ゲホゲホ咳して、ジジイかよ」 辰己は笑ったが、俺は冗談抜きで苦しい。 前屈みになって何度か強めに咳払いをしたら、ガラガラっと音がしてサッシが開き、オッサンが2人浴場に入ってきた。 オッサンらは洗い場の方へ歩いて行ったが、仲良さそうに話をしているので友達なんだろう。 俺はそれを見ているうちに咳が止まったので、辰己と並んで引き続きまったりと湯に浸かっていた。 やがてオッサン達が湯に浸かってきたので、そろそろ出ようかなと思ったが、辰己はまだまったりしている。 それならもう少し付き合おう。 そう思い直して何気なくオッサン2人に目を向けた。 すると、なにやら怪しい動きをしている。 年は40代から上に見えるが、両方共頭の禿げかかったような、あんまりいけてないタイプだ。 体型も腹が出てお世辞にもカッコイイとは言えないが、その2人は湯に浸かりながらやけに密着して座り、湯の中でなにやらゴソゴソと手を動かしている。 まさか、俺達と同じでカップルなのか? と、つい興味を惹かれてチラチラ2人を見ていた。 辰己も気づいているようなので、小声で話しかけた。 「な、あの2人、なんか怪しくね?」 「ああ、うん……」 辰己もオッサン達に気づかれないようにチラ見しているが、オッサン2人はまったくこっちを見ようともせずに、益々行為に夢中になっている。 顔が赤らんでいるし、互いにシコりあってるのかもしれない。 俺はノンケじゃないから嫌悪感は覚えなかった。 むしろ、2人にあてられてこっちまで興奮してきた。 他に客はいないし、オッサンらがそっち側の人間なら……遠慮する事はない。 湯の中で辰己の尻を撫で回した。 「お、おい……」 辰己は戸惑っていたが、俺と同じくオッサン2人にあてられたんだろう。 のぼせたような表情でじっとしている。 俺は前に手をやってナニを握った。 辰己のソレは既にカチカチに勃起していた。 ゆっくりと扱いていったら、辰己は辛そうに眉を歪め、俺の尻たぶをまさぐってきた。 オッサン2人は……というと、片方が片方の背中に密着して、湯が波立つ位体を上下に揺らしている。 前にいる奴は必死に声を抑えているが、あれは絶対やってるに違いない。 だったら、俺らも構わないだろう。 俺と辰己は目配せした。 以心伝心、辰己もその気になったようだ。 俺はこうなる事を密かに期待していた事もあり、体はいつでも準備OKにしてある。 オッサン2人を真似て辰己に背中を向けると、辰己は起立したナニをアナルにあてがってきた。 ローションがないから入れにくいが、先走り汁がローションの代わりになった。 俺達は無言で体を交えた。 「くっ……」 やっぱり、先走り汁だけじゃ少々キツかった。 ナニが軋むように中に入ってきて、俺は全力で声を抑えた。 「はあ、シン……」 辰己は耳元で小さく名前を呼んだが、興奮しているのか、息がかなり荒い。 俺も湯に浸かって逆上せた状態でやってる事もあり、頭がクラクラする位気持ち良かったが、いけない事をしているという状況は余計に興奮を煽る。 辰己が突く度にイきそうになってきた。 けど、湯の中に出したらマナー違反だ。 気を紛らわす為にオッサン2人に目を向けたら、2人はもう動かなくなっていたが、正面に向き直って堂々とキスしている。 もしかしたら、俺達がやってる事に気づいて大胆になったのかもしれない。 『にしても、俺らの前でよくやるよな』と変に感心していると、辰己のナニが俺の中で弾けた。 「ぁ……んんっ!」 我慢したが、つい声が漏れてしまった。 体内から伝わる脈動とあたたかな体液は、何度浴びても体が蕩けそうになる。 でも、トコロテンだけはギリギリ耐えきった。 辰己が満足して俺の中から出て行くまで、俺はぼーっとなって辰己に身を任せていた。 やがて辰己は静かに体を離したが、俺達はオッサン2人みたいに抱き合ってキスはしなかった。 なんだかものすごく悪い事をしたようで申し訳なくなり、2人して何事もなかったようなふりをしていたが、ふと見れば……オッサン2人がニヤニヤしながらこっちに近づいてくる。 俺はやべぇと思って焦った。 「辰己、出よう」 「ああ」 辰己もわかったらしく、俺達は迫り来るオッサン2人を無視して湯から出た。 冷や汗をかきながら急いで浴場から立ち去ると、ロッカーへ向かって歩いて行った。 オッサンが追いかけて来たらどうしよう……という恐怖心から、俺も辰己もものすごい速さで体を拭い、ロッカーの鍵を開けて素早く服を着た。 本当ならくつろぎ広場でゆっくりしたかったが、そんな余裕などある筈がなく、俺達2人は逃げるように銭湯を後にした。 まさか、こんな鄙びた銭湯でお仲間に遭遇するとは思わなかったので、びっくりだったし、オッサンが迫って来た時はすげービビったが、そのオッサン2人に触発されてやってしまったのはマズかった。 下手したら4人で乱交になっていたかもしれない。 俺は辰己の事が好きだし、行きずりの相手とヤルとか、そんなのはお断りだ。 俺達は後味の悪さを引きずりながら、日が暮れた仄暗い道をアパートを目指して歩いていたが、辰己がふと苦笑いを浮かべて言った。 「あれはやっちゃ駄目だ、わかってるのに……、ついあのオッサンらにつられてやってしまった」 「うん、俺も……、次に行く時は気をつけよう」 「だな」 俺らの意見は完全に一致した。 皆が使う公共の場でヤルのはルール違反だし、今回の事はマジで反省しなきゃならない。 ただ……めちゃくちゃ感じたのは確かだ。
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