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2024.11.26
超妄想コンテストに最後応募したのはいつだったっけ?──と、すっかり創作から遠ざかってしまった南波です😂
で、妄想コンテストのお題が「ニセモノ」ってことなので、「待っている女」に引き続き山川方夫の超短編小説「トンボの死」を御紹介。
──
家族を養うために喫茶店でアルバイトをしている19歳の彼女は、同じビルの電器会社で給仕をしている苦学生の彼と親しくなる。
聞けば彼の父親は亡くなっていて、今は継母と弟妹と暮らしているとか……そして夏休みの間、昼は電器会社でのアルバイト、夜は夜間大学に通っているのだと。
やがて夏休みが終わり、彼は電器会社に来なくなったが、それでも喫茶店にはたまに顔を出す。その度に彼女は彼に珈琲を奢ってやり、帰りには決まって何かが入った封筒を渡すのだ。
喫茶店の同僚が彼女に聞く。
「ねぇ、何を渡してるの?いつも」
同僚の問いに彼女は楽しそうにニコニコと答える。
「トンボのエサよ。彼ね、トンボを飼っているの。でも彼は忙しくてエサを取りに行けないから、私が変わりに一生懸命ハエを捕まえて、その死骸を封筒に入れて渡しているの。彼とても感謝しているわ」
やがて季節が秋を迎えた頃、喫茶店に彼女宛の手紙が届く。彼からだった。彼女は手紙を読み終わると蒼白になり、手紙を引き裂いた。
「……バカな人」
泣き出した彼女を心配する同僚たちに彼女は言った。
「あの人アメリカに行くの。彼が本当は苦学生なんかじゃなくてあの電器会社の御曹司だってこと、私はとっくに知っていたのに、彼、もうこれ以上嘘をつくのが辛いだなんて……私は彼がアメリカに行くまでの間、あの人の嘘の中で暮らしていたかったのに……」
泣き続ける彼女の汚れたハンドバッグからいつものふくらんだ封筒が落ちて、中身がこぼれた。果たしてそれはハエの死骸なんかではなく、湿った麦茶の出がらだった。
──
というお話。彼のウソの生命を伸ばすために彼女がせっせと運んでいたウソのエサ。
彼は一度も開けて見たことがなかったのね。
ん?ニセモノってことで長々書いたけど、これはニセモノの話じゃなくて、ウソの話だったかな?🤣
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