アマンダのドーナツ屋

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*  翌週の水曜、昼過ぎ。ジョンが店の扉をあけ、入ってきた。  驚くべきことに、半分以上の席が客で埋まっている。ジョンはカウンター席に座った。 「よう、アマンダ。盛況じゃないか」  口角をあげるジョンに、アマンダはドーナツの型抜きをしながらこたえる。 「何が何だかさっぱりだよ。開店して一人客が来てね。それから、店をのぞく人がちらほら。昼近くになったら客が少しずつ来てくれて。持ち帰りも何件か」 「潮目が変わったのかもなあ。これを観てみろよ」  ジョンは、店内にあるTVリモコンを手にとる。映しだされた画面には、インタビューを受ける和菓子職人がいた。白い帽子と白衣のせいか、青くなった顔が目立つ。 『和菓子に含まれる成分が体に悪いとの事ですが』 『言いがかりだ』 『いえ。ある研究所の実験では、そう結果がでたと聞きます。また、インターネットでも、粒あんの食感が苦手とか。不満も多く』  脂汗をかく職人の顔がアップになったと同時に、ジョンがTVを消した。 「どのチャンネルでもこの騒ぎだ。ずっと和菓子は持ちあげられて報道されていたからな。ちょっとはこういうニュースが出てもいいんじゃないか。まあ、これで和菓子の人気も少し落ちつくさ」    いつものやつを頼む、というジョンにアマンダは力強くうなずいた。 「開店して良かったわ。今日で終わりと思っていたけど、これならあと一回と言わず、店を続けられそう。人生は諦めないことだねえ」  用意していたシナモンドーナツの入った袋を、ジョンに手渡す。 「忙しくなりそうだったから作っておいた。先に渡しとくよ、あんたの孫の分。今度、店に連れてきな。何をやっている人なんだい?」 「あいつはニュース番組の制作者だ。あんたのドーナツに夢中なのさ。最後のドーナツ屋が無くならないよう、って」  そして、ジョンは親指と人差し指で輪をつくった。太い指で作られたOKサインは、小さなドーナツのようだった。
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