1.暗殺者、雷に打たれて人生終了

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1.暗殺者、雷に打たれて人生終了

 真っ白な閃光と轟音に包まれたとき、瞬時に死を覚悟した。  雷が鳴っている段階でマズイなとは思っていたが。標的(ターゲット)を仕留める絶好の機会を得られたのだから仕方がない。天気予報では快晴の筈だったのに、自分が雨男だということを忘れていた。俺が殺しの仕事をするとき、大抵が雨天だ。余計な音が消えるので気取られる確率が下がるのはありがたいが、ときおり嫌なおまけも付いてくる。  そう、雷雨だ。別に雨が降っていても射撃の精度には殆ど影響はない。ないが……雷はマズイ。俺は幼少期から雷が苦手だ。苦手というより恐怖を覚える。まず音が駄目だ。男が情けないと言われようが、怖いものは怖いんだ。  児童養護施設育ちの俺は、両親の顔を知らない。乳児の時に養護施設の玄関前に捨てられていたそうだ。施設長の話では、俺は雷雨の日に捨てられていたそうだ。自我の芽生えなどまだない(ゼロ)歳児が――いや、だからこそ雷の恐怖を植え付けられたのかもしれない。  俺は前方から歩いてくるターゲットを真正面に捉え、すれ違い様にナイフで頸動脈を掻き切った――筈だった。  ナイフに稲光が反射する。くそ、やっぱり銃にすれば良かった。しかしここは住宅街で、雷雨のせいか人通りがない。消音器を装着していたとしても完全に音を消せないので、住民たちに気付かれ通報される危険性があった。だからナイフにしたんだが……金属と雷の相性は最悪。  俺の持つナイフに雷が落ちてくる! ああ、散々仕事とは言え人を殺してきたからこれが報いかな。俺の視界が真っ白に染まった瞬間、俺の右手はターゲットの頸動脈を確実に深く切り裂いた手応えを感じた。しかし、そこまでだ。俺は意識が遠のいていくことにわずかな恐怖を覚えつつ、衝撃が来る前に俺は意識を飛ばすべく目を閉じた。最後までナイフを手放さなかったことだけは、何故か覚えている。
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