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最終話 百合の真実
私たちは百合の実家を訪れ、母親と話をすることにした。そこで、驚くべき事実が明らかになった。
母親の話によると、百合は生前、何かに強い恨みを抱えていたという。そして、恋人もいないはずなのに、子どもが自分のお腹に宿っていると言って、産婦人科に通っていたらしい。母親は生前に百合が書き残した謎の手紙を見せてくれた。
その手紙には、彼女が魔物から取り憑かれたように、真っ赤なインクで「あの男女だけは、絶対に許さない。私の一途な愛を無視しやがって……」と書かれていた。
祐介には覚えがないし、美穂もいじめなどする女性ではないという。祐介は高校を卒業すると、美穂とすぐに別れてしまい、もちろんふたりには子どもなどできていなかった。
だとすると、百合は祐介に対する片思いがエスカレートし、身勝手にも逆恨みするストーカーになってしまったのだろうか……。
私は、付き合ってもいない男との「想像妊娠」という言葉が思い浮かんだ。私への脅しも含めて、彼女の行為そのものは許せなかった。一方で、そこには追い詰められた女性ならではのやるせない想いが感じられて、百合が哀れにも思えた。
このまま、彼女の死の真相を放っておけなかった。さらに解明するため、祐介と一緒に動き出した。それは、私自身の祐介に対する愛の裏返しと重なっていたのかもしれない。
*
母親から、百合の墓のある菩提寺を教えてもらった。さっそく、ふたりで花と水桶を携えて、彼女の弔いに向かった。
黄昏に染まる百合の墓は、寺の奥にひっそりと佇んでいた。静寂に包まれ、そこはかとなく彼岸花の薫りが漂っていた。
黄昏に染まる百合の墓は、寺の奥にひっそりと佇んでいた。静寂に包まれ、そこはかとなく彼岸花の薫りが漂っていた。それは赤の妖しげなものとは異なる、真っ白な引き込まれてしまう薫りだった。
私たちは、百合の名前が刻まれた墓前でひざまずき、両手を合わせて、厳かな気持ちで安らかな眠りを願った。冥福の祈りが終わり目を開けると、信じられないことだが、木立の合間から光が差し込み、石畳から炎のような揺らめきが立ち上った。
そして、突然、晩夏の風に誘われるかのように、私たちは見知らぬ冥界へと引き込まれた。
炎の揺らめきの背後から、懐かしい母校で出会った時と同じ服装のままの百合が涙を浮かべて姿を現した。彼女の透き通るような白い手には、一枚の写真が握られていた。どこからか、切なく震えるような聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「私のこと、覚えていてくれたんだね。ふたりともごめんなさい。この宝物の写真、永遠に消えることがないよう、私の魂のそばに入れてください」
彼女の言葉は、ずっと私たちに届けたかった想いかもしれない。私たちは、その言葉に涙が止まらなかった。彼女から手渡された宝物には、祐介に似た四歳ぐらいの可愛らしい女の子が風車を持つ姿が写り込んでいた。幼い少女は、百合の想いとともに大きくなったのだろうか……。
それは陽炎のようなすぐに消えてしまいそうな姿だったが、見れば見るほど目頭が熱くなり、胸まで締め付けられた。
もう一度目を閉じて合掌した後、穢れを祓うために墓石へそっと水をかけると、炎の揺らめきが周りから跡形もなく消えていた。私たちは百合から預かった写真を真っ白なハンカチで包み、住職に託して、寺を後にした。
寺の門を一歩外に出ると、私の願いが通じたように、空には虹が架かっていた。その美しい景色は、まるで百合が私たちを見守っているかのようだった。
「百合ちゃん、気づくのが遅くなって、ごめんね。そしてありがとう。またふたりで会いに来るから……」
私は、そう空に向かって力強く叫んだ。そして、祐介と頷きながら、百合の想いを胸にしっかりと刻んだ。これからも彼女を永遠に忘れずに、祐介と茨の道を生きていくことを心に深く誓った。
✽.。.:*・゚ ✽.・゚ (終幕)・゚ ✽.。.:*・゚ ✽
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