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第一話 旧友との再会
あれは雨上がりの恐ろしい白昼夢だったのだろうか……。今、思い返すと、二度と出会えない不思議なことばかりだった。
今年の春、私は大学を卒業して新社会人になった。今日は慌ただしい仕事を終え、愛読書に夢中になっていた。会社帰りの車窓から哀愁が漂う夕暮れの空を眺めながら、「日本の死語となったOLの楽園」というエッセイに目を通していた。
いつもの通り、駅からの道すがら、コンビニで弁当や安ワインを手に入れ、ひとり暮らしのアパートに帰った。
この四か月間、晴れて社会人になれば良いことがあるかもしれない。そんな夢の世界を追いかけたが、それはただの幻に過ぎなかった。職場は女性ばかりで、男の子と知り合える機会は少なかった。
一年生OLとなる私の日々には、光り輝く希望など一欠片もなく、ひたすらアパートと仕事場の往復が続くだけだった。
叶えられるものならば、時には、心をときめかせる刺激的な出来事が天から降ってこないかと期待していた。
今夜に限り、アパートの階段下に連なる郵便受けが目に留まった。扉を開けて中を覗いて見ると、スーパーのチラシや無用の宣伝物以外に、私、根本久美宛の封書が一通届いていた。
思わず気になり、封書を大切に持ちながら一目散に階段を駆け上がった。そして、玄関のドアを閉めると、弁当を食べることも忘れて、さっそく中身を開けてみた。
*
拝啓
青葉高校の三年三組、卒業生の皆さん、お久しぶりです。
高校卒業後、皆様いかがお過ごしでしょうか? この度、有志で声をかけあい、令和二年度卒業生の同窓会を開催することとなりました。お互いの近況報告や当時の思い出話など、先生も交えながら話ができることを楽しみにしています。
皆様お誘いあわせの上、ご参加ください。
同窓会の幹事代表、吉川操より
*
そこには、クラス委員で模範生徒だった操ちゃんらしい文章が綴られていた。彼女を含めて連絡を取り合った仲間はいなかった。でも、卒業してから早くも四年経ち、懐かしさが込み上げてきた。
特に、片思いのままで連絡先も知らなかった野々村祐介の顔が目に浮かび、急に会いたくなった。彼は忘れることができない初恋の相手だった。
待ち望んだ同窓会の当日が、早くもやって来た。幸いにも集合時間が近づくと、雨は上がり晴れ間が広がっていた。
しかし、残念なことに、会場となる母校近くのイタリアンレストランでは祐介の姿を見ることはできなかった。このまま、会えずに終わってしまうのだろうか。そう思うと、やるせない気持ちが込み上げてきた。
人知れず、ふうとため息をつき、気を取り直すと、懐かしい顔ぶれが目に飛び込んでくる。私は続けざまに、仲の良かった友だちと短い言葉を交わし、笑顔を振りまいていく。そのとき、代表幹事の操ちゃんが皆の前に司会者として進み出て、開会の挨拶をした。
「皆さん、本日はありがとうございます。私も幹事として皆の元気な笑顔が見られて嬉しいです。おかげさまで、三十人の内、二十七人がこの集いに参加してくださいました。佐藤先生もお越しですから、懐かしい話に花を咲かせてください。それでは、先生に乾杯の音頭をお願いします」
ビールグラスを重ねる音が響き渡り、私たちは酒が飲める成人になっていることに改めて気づいた。九割の出席率には驚きながら、皆の前向きな姿勢に感心した。
祐介がいないことに、私はそこはかとなく寂しさを感じていたが、同級生に連れられて拍手を送った。
カフェテリア方式で提供される料理も美味しく、久しぶりに交わす皆の話も面白くて、足早に時間が通り過ぎていた。でも、私は心のどこかで、欠席した三人のことが気になっていた。
祐介以外の欠席者は、恋敵でクラス一番の美人、美穂ちゃん。彼と付き合っていたと噂されていた。
そして、もうひとりは、いつも目が虚ろでひとりぼっちだった百合ちゃん。彼女は一年を通じて、黒ずくめの洋服で学校に来る不思議な女性だった。
皆の噂話では、百合も私と同じように、切なく祐介に思いを馳せていたらしい。祐介を中心に、クラスメイトの女性たちによる三角関係だったのかもしれない。
わずかな期待ながらも、結局祐介は現れなかった。最後に皆で並んで、集合写真を撮ることになった。
わんぱく坊主だった一平君が「はい、チーズ」と言って笑わせた。だが、他のメンバーから「バターの方が美味いよ」という返事が戻されてきた。彼らがそんなことを言い合っていると、誰かが「笑顔の写真が撮れないから、きっと祟りが起きるぞ!」と言ってまた笑わせた。
仲睦まじくて、和やかな雰囲気で写真が撮れたので、私は少しばかり癒された。暫くすると、操ちゃんが時間を見定めるように、また皆の前で閉会の言葉を口にした。
「皆さん、宴もたけなわで話も尽きないところですが、残念ながらこの辺でお開きにしたいと思います。本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました」と操ちゃんが理路整然に告げると、担任の佐藤先生が口を挟んできた。
「この後、解散する前に希望者だけで母校の教室を覗いてみませんか? 今日は日曜日なので生徒はいません。僕が案内すれば、校内に入れますから」
その言葉には、皆から盛大な拍手が沸き起こった。
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