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#4
3日目。
家の玄関を開けると、差すよう日差しが降り注ぐ。眩しさで一瞬めまいさえ覚えた。
サングラスをしたかったが、宅配業者がサングラスをしていると印象が悪くなるからと禁止されている。
トラックに乗り込み、すぐにエアコンを入れ、ラジオをつける。
「・・・市には、線状降水帯がかかる可能性があり、昨日以上に危険な量の雨が降る可能性があります。昨日までの雨で地盤が緩んでいますので、避難警報が出ていなくても、崖の近くの家の方や川沿いにお住まいの方は早めの避難をお願い致します。また、不要不急の外出はお控えください」
ふうと克史はため息をつく。
「こちとらそうはいかないんだよ」
当たり前と言えば当たり前かもしれないが、ニュースでは宅配便の話題など出ることはない。客は嵐の日でも、予定の日、時間に荷物が当然のように来ると思っている。
ゲリラ雷雨で宅配便のことを思う人はきっと皆無だ。荷物が濡れて不愉快な顔をされ、こちらがひたすら謝るのがオチだ。
トラックをコンビニの駐車場に入れ、昼飯を買うために店に入る。
昼飯はいつもトラックの運転席で手早くすませる。
この世界に入って、仕事中は食堂で昼飯を食べたことはたった一度。どうしてもラーメンが食べたくて入った。
すると隣りにいる客が横目に自分を見てこう言った。
「へぇ、余裕だねお兄ちゃん。ラーメン食う時間あるんだ。サボらないで仕事しろよ」
それ以来、制服を着ては食堂には入らないと心に決めた。宅配業者は食堂で昼飯を食うことさえ許されないのだと思った。
要は、人間扱いされていないのだ。
宅配業者は、荷物を運ぶロボットとでも思っているのだ。
峯村さんからの電話は、依然なかった。
夏休みで旅行に出ているのかもしれない。しかし、連絡先の留守電に荷物がある旨を2度も伝えている。その返事もないというのはどういうことだろう。
海外旅行か。
だとしたら親にも伝えていそうなものだ。海外旅行に行く子どもにクール便など送るはずがない。
もちろん、客が子どもだと勝手に思っているだけなのだが。
そして、なぜ自分が峯村さんの荷物にこんなに執着しているのか訝った。
連絡がなければ、荷物は送り主に戻るだけの話なのに・・・。
克史の目の隅に、助手席に置いたケータイが見えた。
もう一度だけ電話してみようか。
出なければ、もうしない。
近くにコンビニはない。
克史はトラックを走らせたまま、傍に置いたケータイを手に取る。運転中のケータイは禁止にも関わらず、峯村さんの番号を押した。
呼び出し音が鳴る。
1度、2度、3度。
「はい」
電話が繋がる。
そう思った瞬間、角から子どもが自転車に乗って急に飛び出して来るのが見えた。
「危ない!」
思わず叫ぶ。
克史はケータイを放り投げ、慌ててハンドルを切りながら急ブレーキを踏んだ。
耳障りなブレーキ音が辺りに響いた。
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