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#6
警察の事情聴取は終わった。
会社からは、人手が足りないので引き続き配達を継続するようにと命じられた。
内心ほっとしたが、子どもをひきかけたショックからはまだ立ち直れないでいた。
レッカーで車道に移動してもらったトラックに乗り込み、峯村さんに電話しようかとも思ったが、それはやめた。しつこい電話はクレームにもなりかねないからだ。伝票に自分のケータイの電話番号を書いているので、絶対にまたかかって来ると信じた。
しかし、克史の思惑とは異なり、電話はなかなかかかって来なかった。
荷物の受け取りは今日の21時まで。
あと6時間。時間はない。
フロントガラスに雨粒がこぼれた。空を見上げると一面真っ黒で、ゲリラ豪雨になるのは明らかだ。
雷の閃光とほぼ同時に、大きな雷鳴が轟く。まもなくバケツをこぼしたような雨がトラックの車体を容赦なく叩いた。
克史はレインコートをしっかりと着込み、荷物は濡れないようにビニールシートで包み、配達先をまわった。
雨は時間を増すごとにさらにひどくなった。
道路は冠水し、下手をしたら走れなくなる可能性も出て来た。アンダーパスは絶対に避けなければいけない。
克史の行手を阻んだのは雨だけではなかった。
大通りを走っていた時だ。嫌な音がして何かがこちらに向かって飛んで来るのが見えた。その物体は物凄いスピードでフロントガラスギリギリを擦り、背後に消えた。
バックミラーで見ると、鉄製らしい円形のものが道路を転がり、乗用車に激突するのが見えた。
「マンホールの蓋かっ・・・!」
そう思ったのは、目の前の歩道から空に向け、物凄い勢いで水が噴き上がっていたからだ。水道管が破裂したのかもしれない。噴き上がった水は冠水した道路の水嵩をさらに増していた。
マンホールの蓋が激突してたら、おそらく、命さえなかったかもしれないと、身震いした。
克史のトラックは川の中を走るように車道を徐行しながら走る。歩道に乗り上げた一件もあり、配達時間は大幅に遅れていた。到底、今日のノルマはクリア出来そうになかった。配達先に電話し、豪雨のために後日配達にしてもらった客も数件ある。
もちろん、峯村さんのクール便は別だ。
あの荷物だけは、今日届けなけなければ。
説明出来ない不思議な力が、克史を高ぶらせていた。
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