夜に虹がかかるのは

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#7  雨は一向に止まず、すでに夜の時間帯になっていたが、峯村さんからの電話は一向になかった。すでに20時。タイムリミットが迫っていた。 「あと1時間か」  他の荷物はすべて配達を終えていた。残りは峯村さんの荷物だけだった。  克史はコンビニの駐車場に入り、ハンドルにに両腕を置き、体を預けラジオから流れる音楽に身を任せた。 「いらいろあった日だった」  独り言が漏れた。  子どもの自転車の飛び出し、マンホールの蓋が飛んで来て、冠水した道路を走った。もうクタクタだった。睡魔に襲われ、軽く目を瞑る。 「潮時かな」  疲弊した気持ちが言葉となる。  30歳になり、結婚のことも考えたいが忙しくて出会いもない。  宅配便は若くなければ出来ない肉体労働だ。いっそ実家に戻り、兄が引き継いだ家業である製紙工場で働こうか。室内の仕事は何より天気を気にする必要もない。  思いを届ける仕事をだと思っていたが、もはやその初心も消えようとしていた。 「社会的地位が低すぎるんだよ」  溜まった愚痴がつい口からこぼれる。  辞めるならいまだな。そう思った。  時間を見る。  20時20分。  いまいる場所から峯村さんのマンションまで行くには15分はかかる。ギリギリだ。  最後の電話かけようか。  そう思った時、ケータイが鳴った。 「はい、宅配便ドライバーの工藤です」 「すみません、岸川町一丁目の」 「あーはいっ!峯村さんですね。これからいらっしゃいますか」 「はい、います。まだ、大丈夫でしょうか」  克史はケータイで話ながらハンドルを握り直す。 「大丈夫です!15分で伺います」  話終える前に、トラックはすでに動いていた。
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