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「彪流さん、ホントにご馳走になっちゃっていいの?」
下田綾子はメニューをパラパラとめくりながら上目遣いで俺に聞いてきた。
窓際席で沈みかけの夕日がガッツリと入ってくる。
俺は精一杯気を使ってロールカーテンを降ろしながら下田綾子に言った。
「いいよいいよ。飯でもいいし、デザートでもいいし。何でもいいよ?なんならビール飲むか?」
「馬鹿。あたし受験生だよ?」
下田綾子の魅力の一つ、ふくれっ面だ。
これは本当に可愛かった。
怒ったり、不機嫌になると普通は目がキッとなるのが普通だが彼女はあきれたような感じで逆に目尻が下がってしまうのだ。
さらに唇をくっと窄ませてプイと顔を外に向ける仕草がまた可愛さに拍車をかける。
困り眉と目尻下がり、そして口を尖らせて顔を外に向ける仕草の三位一体波状攻撃は二〜三人は殺れる。
「ナハハ…悪かった悪かった…。まぁマジで好きなの頼みな。」
もはや俺のハートは撃ち抜かれてしまっていた。
「ん。ありがと。じゃあご馳走になります。」
丁寧に頭を下げる下田綾子。
育ちの良さが垣間見える。
俺は…ええと…何頼んだか忘れた。
下田綾子は確か御膳という定食というか…そんなんだった。
箸を持ち、手を合わせて「いただきます」と言ったのをよく覚えている。
食事が始まっても特に会話が無い。
しかし俺の中で「これは俺がいかねば!」と思った仕草を下田綾子は見せたのだ。
箸を口に運び、口に入れ終える度に俺を上目遣いで見てくるのだ。
目が合うと、口いっぱいに頬張った状態で両口角を上げて「フぅン」と笑顔を見せてくれる。
どれほどこの時を待っただろう。
よく分からないが今こそ好機、そう確信していた。
今思うとなんでこの笑みを見ていける、と思ったのかよく分からんな。
普段悲観的であり、マイナス思考の人間が暗転した時は恐ろしいほどに変なところでポジティブになるのだろう。
そう、暗転するとな。
「せっかくのリフレッシュだったらもう少しいいトコ連れて行ってやりゃ良かったかな。」
とりあえずの会話だ。
その返答を聞いたからといって何をどうするわけでもない。
「ううん?大丈夫。美味しいよ?それにリフレッシュしなきゃ!ってなるほど勉強してないし。ムフフッ…。」
下田綾子は口に手を当てて、頬を膨らませて笑った。
頬袋にナッツを詰め込んだげっ歯類のような可愛さだ。
「そういや体育祭、リレー選手なんだって?」
「うん、そこまで足速いわけじゃないんだけどね。なんか選ばれちゃった。体育祭見に来るんでしょ?祐実ちゃんから聞いたよ?」
「あぁ、行くつもり。母校の様子でも見に行こうかなって。」
会話が弾みだした。
今のうちにしっかりと心を近付けておこう、そう考えて俺は会話を広げた。
実際広がったのかどうかは分からん。
ただのうざ絡みと感じさせてしまった可能性もある。
食事と会話を楽しみ、お会計。
「彪流さん、ごちそうさまでした。ホントにありがとう。」
お会計時には俺の斜め後ろに立ち、深々と頭を下げる下田綾子。
安価なファミレスご馳走しただけでそんなんしなくていいのに。
二人で三千円しないくらいの飯代だぜ?
「おう、悪ぃな。ごっそさん。」くらいでいいんだがな。
やっぱお嬢様なんでしょね。
一々育ちの良さが垣間見えるわ。
これを読んでいただいている方に下劣な方はいらっしゃらないかと思うが、男が奢るのが当然とかほざき散らかしてる方々へ俺は言いたい。
自分の価値が高価だと思うならこういう所作を身に付けておくんだな。
金を出す方は出そうと思って出しているのだから感謝しろとは言わない。
感謝しているフリくれぇしろ。
それすらできねぇなら野良猫のショ◯ベンがかかったその辺の草でも食ってろ。
お前らの餌はそんなんで十分だ。
オホン…
話を戻す。
会計が終わり車に乗り込む二人。
そして特攻(←ぶっこみと読む)の俺。
こういう時って勢いが大事よね☆
さ、逝くわYO!
「なぁ、悪いんだがもう少し…時間くれない?」
あああああああいいいいいいい!!
言うてMotorぁあああああああ!!
も、もう!!
もう後戻りはできない!!
漢・閃光ヶ原彪流!!
いざ!参るッ!!
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