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「え…えぇ…?ち、ちょっと…?彪流くん…なんで?あ、あたし?」
顔を不規則に動かしながら、目を泳がせる下田綾子の反応を見ると、想定外の事件だったのだろう。
「俺はお前が好きだ。下田綾子、綾子が好きだ。」
もう一度俺が言うと、下田綾子の中で動揺から現実の把握までフェーズが移行したのか不規則で奇妙な動きが止まった。
「それは…あたしの事…女としてってこと…かな…。」
下田駅は両手を菩薩のように形取り、顎の下に置いた状態で俺を見上げた。
可愛い。
失禁するほど可愛い仕草だけどこの質問て七割で負けるパターンなんじゃね?
どうなの?
I love you連発する渚の狼BOYが読者様にいたら教えてほしい。
「そう、友達でも兄妹でも…もちろん保護者でもないよ?お前を一人の女としてだ。」
「ンフフフ、保護者って…そっか…彪流くんもう社会人だもんね。」
イヨシッ!
笑ってくれた!!
押せ!押すんだ!押すべし!!
「でもそんな俺から見て、お前は子どもじゃない。一人の女だよ。だから付き合ってほしい。一人の女と一人の男として。」
「そっか…ありがとう…。ンへへへ…何か…照れるね。なんかあたしよく分かんないんだけど普通に彪流くんって呼んでた。大先輩なのに…。ごめん、失礼だったかな。」
「いや、全然。大丈夫。年の差はあるかもしれないけど…君付けで呼んでくれたのだって嬉しいよ。」
俺は研修会を経て、彼女達が実際に活動を開始した日のことを思い出した。
またたく間に子ども達の注目を集め、話を聞かせるその実力においては性別差はあれど俺など足元にも及ばない。
元気な声、可愛くて子ども達と等身大になって接するその優しさ、貨物列車のように子ども達を力強く引っ張っていくリーダーシップ、どれも俺には無いものだ。
それを告白したこの時、思い出していると込み上げてくるものがある。
自分より確実に実力がある者が、なぜか俺を慕い、後について来てくれた。
そして今、その思いをさらけ出した。
その事実だけでも「何者かになりたい自分」の溢れ出る承認欲求を満足させきるものがあった。
静寂が訪れる。
どれほどの時間、その静寂が俺達二人を包んでいたか分からない。
軽やかなさざ波の音が静寂に拍車をかける。
「あ…あたし…びっくりしてる…急に彪流くんて…あの…彪流くん…その…あたし…」
ドクンドクン…
あたし…なんだよ…
そこから先次第で俺の首に鈍らの刃が落とされるか、それともその刃が引き上げられるかが決まるんだ。
「あたし…今…」
あたし…今…?
覚えている。
馬鹿みたいに下田綾子の言った言葉を心の中で復唱していた事を、今でも。
「す、少し…」
少し?
これはネガティブな「少し」なのか?
「混乱してるの…」
これはネガティブな「混乱」なのか?
「だから…」
だから?
これはネガティブn…
「考えさせてほしい…。」
下田綾子は体を少しねじり、顎の下にある菩薩の両手と腕をぎゅっとハの字に閉めた。
豊満な乳房が自身の腕に潰されて俺の視覚を激しく刺激する。
こ、これは…?
どうなんでしょ?
紐を解いてみよう。
「あたしも好き!」ではなく、「考えたい」ねぇ…。
考えなきゃ答えが出ないということか?
そもそも考えるとは何を何時までに考えるのだ?
期日期限を守ることは信用信頼を守ることに等しい!!
そしてそれは実績と実利益に繋がるもの也!
いや、そんなこたぁこの時考えてまへんよ?
ただなんというか…即決できなかったその現状に落胆したのは落胆した。
だが吐いたセリフを飲み込むことはできない。
落胆しても仕方がない。
「分かったよ。ゆっくり考えて。俺の気持ちは変わらないから。待ってるよ。」
「ん…。ありがとう…。」
「送るよ。」
「ありがとう…彪流くん…。」
二人は無言のまま車を走らせ、下田家の前にたどり着いた。
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